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るなてぃっく野狐

野良狐がゆっくりと錯乱していく

方向音痴の方向音痴による方向音痴のための考察

夜の11時に目が覚めた。

昼間にスペイン人に連れられ、大量の昼飯を食べさせられたせいだろう。本当にすごい量だった。起きた瞬間「やべぇ、あの肉まだ残ってやがる」という気持ちになった。ちなみに夕飯ではない、昼飯である。
しばらく部屋の中をくるくる回ってみたが胃もたれが解消される気配もないので、僕は外に出ることにした。ウィンドブレーカーの下は半袖で寒かったが、歩き始めるとすぐに身体は温まった。

 

スペインに来てからというもの、ろくな運動をしていなかった。日本でも大した運動はしていないが、それでも一日一万歩と、爺さんが健康のために歩く歩数くらい歩いている。こちらに来てからは、少ない日は一日500歩くらいである。iPhoneにデフォで入っているヘルスケアの結果だ。(ちなみにこいつはなかなか優秀で、一日に上った階数なんかも表示してくる。大した情報ではないが、たくさん上った日なんかは、反映された数字を見てちょっと嬉しい気持ちになれる。)

 

歩き始めたはいいが、どこを歩くか、まだ決めていなかったことに気づく。僕は観光に興味が全くないし、深夜近くの街で開いている場所は飯屋くらいである。徘徊は好きだが、徘徊ひとつにもコンセプトは必要。

しばらく歩きながら考えた結果、街の一番高いところに行くことにした。日中に嬉しい出来事があったからかもしれない。不思議と、いいことがあると、僕は高いところに行きたくなる。高いところに行って街を一望して、適当な音楽を聴きながらその場で呆ける。そういう場所を探し求め、とにかく上を目指して僕は足を進めた。

あらためて気づかされる、ビルバオは坂がとても多いのだ。盆地というか、とにかく傾斜40〜50度くらいの坂が市街地の周りにずっと続いている。その坂の一帯に住宅街が密集しているのが下から見てもわかった。海外だなぁ、と思う。日本も住宅街は密接しているものだが、大体が平地にある。坂の傾斜に沿って段々と家が並ぶ風景は、日本ではあまり見ない。

僕は住宅街を歩き回る不審者にはなりたくなかったので、住宅街の少し外れにある広い道を通って上を目指すことにした。途中、廃れた線路のない電車の駅を通ったり、青い光が漏れ出る建物を通過したりした。30分ほど歩き、半ば息を切らしているところで、頂上付近にたどり着いた。

頂上からの景色は綺麗だった。カメラに収めるとその景色は一気に安っぽくなってしまったが、街の明かりがきらきらと輝き、さんざめくのを、無心で僕はしばらく見ていた。しばらく見ていたら飽きてきたので、ホテルに戻ることにした。


さて、この日記のタイトルは方向音痴の方向音痴による方向音痴のための考察、である。ここまでの時点である程度の予測はついていると思うが、僕は方向音痴である。方向音痴が何も考えずに知らない土地を歩いた結果、迷子になるのは必然と言えるだろう。ここスペインでも、今日僕は迷子になった。だから、僕がどういった過ちを犯し迷子の深淵に足を踏み入れたか、客観的な考察を行い、世の方向音痴を正しい方向に導きたいと思っている。まさに、方向音痴の方向音痴による、方向音痴のための考察。

 

頂上から坂を下り始める時、僕は来た道を戻るようにして戻った。これは極めて正しい選択である。「来た道を戻る」は鉄則だ。

しかし数分後に問題が発生する。分岐点の登場だ。坂を上る時は分岐点などないと思っていた。下ってみると、右と左にそれぞれ道が分かれている。暗い道と明るい道があり、迷った挙げ句「来た時は人気がなかったから、暗い道かな」と思って右の道を進む。

そこから歩き続けると、これまた見覚えのない分岐にさしかかった。来る時、分岐があるたびに確認しておけばよかったのかもしれない。そういう細かいところにまで気がいかないから、迷うのだろうなと思った。

ふたつの道を見比べていると、片側に猫がいるのを発見した。こちらをじっと見て微動だにせずで、警戒しているのがわかった。ゆっくり近づくと、やつは道のさらに逸れたところに逃げていく。僕はその後を追いかけて、脇道に入っていった。猫は少し遠くからこちらを眺めていたが、僕が猫に向かって一歩歩き出したところでまた逃げられた。ひょいっと奥の通りを左に入っていったので、僕も後を追ったが、結局それ以降猫には会えなかった。

さて、一通り猫について行ったところで、僕は自分が住宅街の中にいることに気づいた。恐らく、上る時に見た、段々の住宅街だろうと推察できた。位置関係を頭の中で整理する。来た時は右にあったから、おそらくこれは右に進みすぎているのか・・・?この辺りからよくわからなくなった。とにかく坂を下っていけば辿り即くだろうと考えるのを辞め、住宅街の中にある階段をどんどん下っていく。

住宅街を抜けると、しかし、結果的に僕は知らぬ場所にたどり着いていた。なおも坂道が続くので、道半ばなのは明確だったが、左か右か、全く判断できない。建物で先の視界もあまりよくなく、とにかく真っ直ぐ下ることにした。この辺りから、僕は「もしかしたら自分は迷子なのではないか?」という疑問を抱くようになる。客観的に書いていて「馬鹿か、とうに迷っておるだろう」とツッコミを入れたくなったが、この時点まで、僕は「迷ってはいるものの、正しい道を選択している」と信じ切っていた。この根拠のない自信が、足取りを軽くしていたのもまた事実である。だからあそこまで行けたのも事実だ。だが、ふと我に返り、これは迷子か?と気づくと、心は少しずつ焦りを感じるようになるものだ。

僕はとにかく、あの青い光の発光する建物か、線路のない電車の駅を探すことにした。下に行くことを最優先事項とし、分岐があれば適度に左右に行く。ジグザグ走行である。これを行うことにより、自分の記憶に新しい場所を見つけられる可能性が高まる。結果的に言えばこのジグザグ走行は全くの無駄だった。あのとき真っ直ぐ下っていれば、少なくとも川に出て、どちらかに歩けばホテルにたどり着いたはずなのだから。


往路に30分かかった散歩は、復路では1時間かかっていた。着いた時に安堵で胸を撫で下ろしたい気持ちに激しく駆られるが、周りには迷子だったことを悟られぬよう、僕は平然とした顔でホテルの中に入っていく。

 

 

だらだらと長くなり、この日記の方向性も迷子になりそうなので、最後にしっかりとまとめよう。方向音痴の方向音痴にるよる方向音痴のための考察。

 

【迷う原因】
 ・何も考えずに歩く
 ・生き物についていく
 ・迷子であることに気づかない

 

【解決する方法】
 ・往路に道を確認しながら歩く

 ・生き物がいてもついていかない

 ・自らの方向認知能力の欠陥に気づく

 

ホテルのロビーに入ってから、僕は運動のためエレベーターを使わずに階段で、自室のある7階まで上った。7階に着いてから、今日果たして何階分上ったのかを確認しようと思いヘルスケアを開いた。ふと、ヘルスケアアプリの隣にgoogle mapがあることに気がつく。ポケットに無線wi-fiも持っていたことに気づく。

あ、と思う。

 

【解決する方法】

 ・往路に道を確認しながら歩く

 ・生き物がいてもついていかない

 ・自らの方向認知能力の欠陥に気づく

 ・google mapを使用する