るなてぃっく野狐

野良狐がゆっくりと錯乱していく

絶対的正義ボブ

突然だが、ここ数日間思っていたことを、この場で告白させてもらう。

 

「日本中の女性が全員ボブになればいいのに!!!」

 

一応誤解のないように説明するが、ボブは "Hello, I'm Bob!" のボブではない。僕のステレオタイプではボブは黒人で、黒光りの身体はがっしりしていて、ピンクの唇はぶ厚くて、青い瞳はくるりと大きいのだが、そのボブではない。そのボブだったとして、僕の願いが万一叶ってしまったら、その瞬間から日本は大パニックである。

日本中の女性が全員Bobになったら、「目が覚めたら横で知らん黒人が寝てる、マジ恐怖」というツイートが各地で発生する。観光客以上にBobが増え、街のところどころで彼らは流暢な日本語を喋っている。スーパーでは、セール対象の肉をめがけてBobたちが猛進する。ガールズトークという文化はボブズトークという言葉に変わる。病院ではBobからBob Juniorが生まれる。フェイスブックのいいね!ボタンが、ぼぶ!ボタンになる。アメリカの報道番組CNNは「日本人女性、どこに?」という話題で持ちきりになる。決してそんな絶望的なことを想像してほしくないので、もう一度言う、そのボブではない。Bobの話はもういい。

 

ここでいうボブとは「ボブカット」のボブである。ヘアスタイルの一種で、比較的短め、全体的に丸い感じにまとまった髪型のことをボブという(と思っている)。今なおボブは多くの人に支持される髪型だが、ひと昔前、ボブブームが訪れた時など、「街歩けばボブがいる」という状態だった。それでも女性が同じに見えなかったのは、ボブに実にたくさんの種類があるからだろう。ナチュラルボブ、ショートボブ、前下がりボブ、ぱっつんボブ、前分けボブ、ゆるふわボブ、エトセトラ・・・。おおよそこのような区分けがされている。区分けをしたうえで言う。それら全てのボブが愛おしい。つまり、区分けなど無意味なくらい、ボブはその全てが敬愛すべき髪型なのだ。

日本中の女性ボブ化計画遂行のため、ここで幾つかボブになることのメリットを紹介したい。

 

①ボブはまとまりがよい。
たとえ躍動感のある動きをしたとしても、ボブだったらすぐ元に戻る。一秒に首を40回転させたとしよう。長い髪であれば、顔面に髪の毛がかかっているのが目に見えている。しかし、ボブであれば、たとえそれが80回転だとしても「ふぁさっ」と、すぐに元通りになる。

 

②髪の毛を食うことがない。
長い髪の場合、食事中気づかぬ内に髪を食べていて、髪の毛がなくなってしまう、という事故が昔からよく起こっている。一度髪の毛が口に入ると「ぶちっ」と頭皮から髪の毛を食いちぎってしまうため、髪の毛が短くなるじゃ済まない話なのだ。禿げることを気にせず食事に没頭できるのは、女性にとって喜ばしいことだろう。

 

③工場見学の際に安全に見てまわることができる。
工場見学ツアー。今や日本人女性の9割が定期的に通うこのツアーは、死と隣り合わせのデスツアーなのだ。プレス機に始まり、切断機、吸引器、くるくる回るよくわからない機械・・・こういったものは、髪の毛を挟まれたら最期、足元までの全てをぐちゃぐちゃにしてしまう。髪の毛を長いと、ふとした瞬間に巻き込まれてしまう恐れがある。こんなこと、起きてしまってはいけない。ファイナルデスティネーション3では、ある女性の髪の毛(彼女はロングの髪の毛を三つ編みにしていた)にフックが引っかかり、それが原因でエレベーターに身体が挟まれ、首が千切れるという悲惨な事件が起こったが、あれもボブだったら起こらずに済んだ。

 

④後頭部の謎の空間にいろいろなものを貯蔵できる。
職場のデスク、物が散乱していて仕事にならない!そんな女性はいませんか?あなたに朗報です。ボブにすれば、机の上の散らかった文房具や書類など、全て後頭部のもこっとした謎の空間に入れることができます。仕事の場面のみならず、デートの際には小腹が空いたときのためのお菓子、災害では非常食を入れておくことであなたの強い味方に。

 

⑤髪の毛を針状にして発射することができる。
一般的にはボブの女性にしかない機能だが、例外として男性で、ゲゲゲの鬼太郎も使うことができる。

 

⑥頭を撫でて「ぽんぽん」したいと男性に思わせることができる。
男性の多くは、ボブの「後頭部の謎の空間」に注目する。あの後ろのもこっとした空間に、手を入れてわしゃわしゃしてみたいと思う。「にゃあーー」とか言ってわしゃわしゃーとして、それから手についた頭皮の匂いを嗅いでみたいと思う。この感覚は、多くの男性の共感を得られると確信している。少なくとも僕はそうである。


先日、美容室に行った際にも店員さんに、自分がどれだけボブが好きかを僕は力説した。表現しきれぬ魅力に困っている僕に、店員さんは女性のヘアカタログを持ってきてくれた。
「んじゃあ、野狐さんの言う一番理想の髪型ってどれですか?」
ヘアカタログの表紙には「ボブ特集」と書いてあって、該当のページを見ていると様々な髪型が載っていた。
「えー、これは難しいですねぇ!」
そう言ってテンションのあがった僕は、だが結局その特集ページでびびっとくる髪型は見つからず、特集ページ以外のところもぱらぱらとめくって確認した。特集以外でもボブの髪型はあって、そこに、僕は見つけたのだ。女性を指さして、店員さんに見せた。
「これです!この髪型が一番好きです!」
「え、これですか?」
「はい、これくらい短いボブが理想です!」
「これ、ショートですよ」
「え、これ、ショートなんですか?僕が今まで信じてきた髪型はなんだったんですか?」
「ショートですかねぇ」

ショートだったみたいです。