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るなてぃっく野狐

野良狐がゆっくりと錯乱していく

「俺のマドラー」で試される己の想像力

いよいよ2017年に突入した。
僕は90年生まれなので、比較的年齢が数えやすい。3月を過ぎれば27歳になる。きりのいい数字にも関わらず、親は最近になって僕の年齢をひとつかふたつ上であることを推測するようになった。
「あれ、野狐って今28だっけ?」
「いや、俺90年生まれやからまだ26だよ」
昨年末にこんな会話を二回か三回ほどした。平和である。

さて、年末年始は恋人と一緒に過ごした。初めて、年越しを恋人と過ごす僕にとって、それは初体験にも似たような高揚感を感じさせるものだった。何をしようか、どこに行こうかと初心な心を思い出させてくれた。結果的には2017年突入の2分前までは眠り、2017年突入の30分後には寒くて外に出ないまま眠ってしまったのだが。しかし、人生で最も幸福な年越しだったと思う。1月3日まで一緒に居たのだが、初夢にも、その後一緒に居た間も絶えず彼女といる夢を見続けた。
はい、これは疑う余地もなくただの「惚気」でごぜえます。
幸せ過ぎると人間はこうも己の幸福を世間にさらしたくなるものなのだな。


さて、その年末年始、恋人とある議題について討論を行った。
「俺の〜」を名詞の語頭に付けると、それだけで卑猥な響きになってしまうという現象についてだ。
京都まで来てくれた彼女と、大手筋商店街のカフェ・ベローチェに入った時にその議題は浮上した。彼女はカプチーノを頼み、僕はホットココアを頼んだ。各々が取ったマドラーで中身を混ぜながら、煙草を吸いながらゆっくりと飲んでいく。一旦トレーの上に置かれたマドラーたちだったが、ココアを飲み終わって僕は、なんとなくそれらを自分のマグカップに入れた。バカップル丸出しなのだが、それらのマドラーを重ね合わせて「ずっと一緒だね、君のマドラーと俺のマドラー」と言った。数秒間の沈黙の後、彼女は「えっ・・・」と言って、薄ら笑いを浮かべていた。その「えっ・・・」という反応に僕も自らの言葉の過ちに気づく。
「俺のマドラーって完全な下ネタやった・・・」
これが「僕のマドラー」だったら、まだ可愛げがあっただろう。だが、「俺のマドラー」である。さらには「君のマドラー」である。頭の中ではBL的要素を多分に含んだイメージが乱立していく。眼鏡をかけた狐っぽい男が、細マッチョの童顔男子に向かって言うのだ。「俺のマドラーと君のマドラーが、ああ、重なり合っているよ」と。もう一度言う、完全な下ネタである、これ以上ないくらいの下ネタが、何気ない発言の中から生み出されてしまった。にしても、マドラーとは。長いけれども細すぎやしないか?
何はともあれ、これを皮切りに僕は【語頭「俺の」+名詞=下ネタ】の方程式に気づいてしまった。
例えば、それは下ネタになるであろうものから、下ネタに結びつくのか?というものまで、全て該当することがわかった。

「俺のフレンチ」   これはわかりやすい。
「俺のホットミルク」 これはもっとわかりやすい。
「俺のカルパッチョ」 若干わかりにくいが、なんだかみずみずしい感じがする。
「俺のイタリアン」  全くわからないが、想像力はかきたてられる。

不思議と、想像の難易度が上がれば上がるほど、僕にとってはそれは卑猥に聞こえるようになった。例えば僕はレモンが好きでたまらないのだが、そのレモンを「俺のレモン」というだけで、なんだか卑猥に感じてしまう。
「えっ、レモンってどこの部分のこと!?」とか「なにそれどんな技!?」とか。ああ、言われるまでもなく、僕の心は荒んでいる。だが、同時にこれは想像力が豊かであることの証明のようにも思えた。「秘技・野狐流抜刀術 俺のレモン・・・!」とか言ってしまえば、もう予想だにしない卑猥な攻撃が繰り出されることを想像してはしまわないだろうか?何かがわからないからこそ、それに対する興味が出てくる。「俺の○○」発言は、人間の興味と想像力をはかり、潜在的にその能力を引き延ばす効果があるのではないか、と僕は思い、彼女にその思いの丈を伝えた。

残念ながら、それを彼女に力説したところで同意は得られなかった。
120%の力で行ったプレゼンテーションは、くしくもカフェの一角で静かに否定され消え失せてしまった。

まあ、最終的には「野狐」の脳内が汚染されて取り返しのつかないという結論に至り、議論は収束してしまったわけだった。恋人はそれを明言はしなかったが、僕を見る目が少しばかりの憂いを秘めていたことから、彼女の返答がそういったものであると感じ取ることができた。その美しい目を見ると、「早く彼女のことを嫁と呼びたいな」と思わずにはいられなかった。
苦笑いなのか、はにかみかなのかもわからない表情を互いに見せながら、そうして僕らはカフェを後にした。

 

年始早々すいませんでした、今年も何卒よろしくお願いいたします。