るなてぃっく野狐

野良狐がゆっくりと錯乱していく

JRが中長距離カップル証明書を発行したらみんな(特に野狐)が幸せになる


「日曜日の朝。
前日に恋人とした電話はまだ繋がっていた。そばに置いている電話のスピーカーからは彼女の寝息が聞こえていて、僕はその寝息に心地よさを覚えていた。そして「会いたいな」と思うのであった。彼女は東京に住んでいる。一方の僕は京都だ。先週会ったばかりだが、その距離も相まって、僕は彼女にたまらなく会いたかった。

しばらくすると、電話の向こう側からがさがさと音がした。起きたのだろう、それまでのもぞもぞとは違って、音は明瞭で意思を持っていた。
「おはよう」
そう言うと、彼女もおはようと返してきた。その声はたまらなく愛おしくて、僕は昨夜からずっと続いている胸の締め付けをあらためて感じた。きゅっと心臓を持っていかれるような、甘酸っぱさのある安らかな感覚。
しばらく会話をして、午前11時頃。ベランダに出てパーラメントに火をつけた。椅子に腰掛けて、空を見上げる。昨日と同様、今日も空には雲ひとつなかった。その景色があまりにも綺麗に見えたのは、彼女と今こうして繋がっているからなんだろうな、と思う。僕はいよいよ我慢できずに切り出した。
「ねぇ、今から会いに行ってもいい?」
京都から東京までは、行こうと思えば新幹線一本で行くことができる。しかし、日曜の昼間だ。これが金曜日の夜中とか、せめて土曜日の朝だったら彼女も快く了解してくれたことだろう。次の日には会社に出なければならないし、会える時間はせいぜい6時間程度。多分同じことを彼女が提言したら僕は「それは勿体ないよ!」と言うので、彼女の気持ちはわからないでもない。だが、好きなのだ。その気持ちをただ抑えて日曜の晴天のもと1日をやり過ごす術など、僕は持ち合わせていなかった。

急いで準備をして、13時前の新幹線に乗る。
3列シートの窓側には同い年くらいの男性が座っている。足元に買い物袋がたくさん置いてあった、関西以下に住む恋人と買い物にでも行ったのだろうか。斜め前には、マフラーを編む女性が座っていた。そのマフラーは、クリスマスのために一生懸命編んでいるのだろうなというのがわかる。
新幹線には、おそらく僕のような中距離恋愛をしているカップルが数人は乗っている。ひとつの車両だけで数人いるのだから、全体で見ればある程度の数はいることだろう。三連休などならずとも、好きという気持ちで僕らは日本のある地点からある地点までへと移動していた。そう考えると、JRはとてつもなく良い仕事をしているのだなと思った。出張時は「新幹線がなければそれだけで1日つぶせるのに」と愚痴をこぼしていたが、会いたい人がいれば愚痴は一気に感謝に変わった。新幹線があるから、僕らは歩けば何日もかかる距離を数時間で行けてしまうのだ。

そこで僕は思った。
中距離恋愛をするカップルにとって、新幹線は神の化身とも言えるほど重要な存在なのだ。
カップル限定のキャンペーンがあってもいいのではないか、と。ネットで調べてみたが、該当するようなキャンペーンは一切やっていなかった。仕方なく、僕はそれを企画することにした。企画するだけであって、僕はJRとは一切関係ない。
よって、以下は野狐による「JRのカップル限定キャンペーン(妄想)」である。


☆終着駅は愛する人の腕の中☆
カップル限定、自由席割引キャンペーン

■キャンペーン内容
「中長距離カップル証明書」を発行したカップル限定で使用できる割引サービス。
証明書の発行は緑の窓口にて。年会費1カップル5万円、有効期限は1年。
特急券・自由席券が、証明書を見せればなんと通常価格の3割引にて購入できます。

もしそんなキャンペーンがあったら、僕は即、緑の窓口に行って購入をするだろう。
京都ー東京間で見れば、片道の割引はおよそ3900円、1万円という数字を切るわけである。合計12回新幹線に乗ることで年会費の元を取ることができる(つまり、6回会えば達成なわけだ)。もちろん金銭的なメリットもあるが、これによってもたらされる最大の恩恵は「今までよりも少し会いやすくなる」ことだ。会いたいのに会えない、会いたいけれど甘えられない、そんな想いを少し和らげてくれる。気持ちの面でのサポートである。中距離恋愛のカップルたちは心も身体ももっと近くに感じることができるし、それによって会いたいという気持ちも強まっていくだろう。
JRにとってもこれは大きなメリットになる。年会費の件があるから、カップルはなるべく多く会おうとする。自由席に限定されているため、ビジネスで行き来する人々の邪魔にもならない。さらに、こんな粋なキャンペーンをするJRの評価は右肩上がりだろう。ああ、楽しそう。やってみたい。こういう企画をやってみたい!JRさん、なんかやってくれませんか、こういうの!?

車掌さんに声をかけるのを我慢しながら、そんな妄想を胸の奥に静かにしまった。
あと五分後には、会いに会いたかった彼女と会うことができる。
新幹線さまさま。文明の力にひたすら感謝する。

ではみなさん、また帰りの新幹線でお会いしましょう。」

 

と書いたのが一日前の昼下がりのことだった。

結局、京都に戻るのは朝に。

 

※この記事は野狐の惚気たい一心で書き進めました。
※野狐はルナティックですが恋人は妄想や二次元、ストーキングしている人ではありません。三次元に実在するしっかりとお付き合いをさせて頂いている方です。