るなてぃっく野狐

野良狐がゆっくりと錯乱していく

新幹線を吞み込んでみたら世界が平和になった

仙台に友人がいる。

彼女はなんというかまあ「腐れ仲」なのだが、そもそも腐れ仲がどういった仲かというと「互いに腐っていることを認識しあい、認め合える仲」である。腐れ縁ではなく、腐れ仲。互いが腐っていることを認め合える男女の仲は、そうそうない気がする。僕は公認の変態であるが、それでも普通の友達には見せない ”より” 腐った一面がある。それを見せられるのだから、彼女は大切な友達なのだろう。今日、その子からメールが来た。

 

「昨日夢に野狐たんが出てきて、花火見に行こうって言われてケンヂたちと何人かでタワーみたいなとこ行ったらわし、花火見る前に野狐たんに突き落とされたわ。笑」

 

そのメールに僕は「夢の中でも殺人鬼か俺は。笑」とメールを返した。ちなみに友人は「わし」という一人称を使っているが立派な女性(アラサー)である。かくして僕は腐れ仲アラサー女子の夢に殺人犯として登場したわけだが、実はこれが初めてではない。前に二度、他の友人の夢にも上がり込んで彼らを殺したことがあった。現実世界で言えばこれは立派な連続殺人で、つまり社会的に見れば僕は「殺人犯」ではなく「殺人鬼」なのだ。こういうとき、僕はどういう顔をしていたのだろうか・・・やはり、殺人鬼らしく笑っていたのだろうか。

とにかくアラサー女子からそんなメールが来て、今日一日、僕は少しだけ無敵の気分を味わった。おそらくこの世界で、他人の夢に上がり込み、相手を殺すことができるのは「フレディ」くらいである(フレディは赤白のセーターを着た、火傷した殺人鬼)。フレディは現実世界でも危害を加えるのに対して、他方、僕の場合は実被害がない。
なんとWin-Winな関係だろうか?なにせ相手は「殺される」という貴重な体験をしていて、僕は「殺した」という貴重な体験を聞いているのだ。もはや体験しているのと同義だ。夢の中だから国家に追われることもなければ、たとえ名探偵コナンであっても事件を解決することはできない。所謂、完全殺人である。

何より喜ばしいのは、「殺る殺られる」という本来不謹慎であるべき事象を、被害者と加害者が笑って語り合えるところだ。死人に口なしではない、死んだはずの相手から話題を振ってくるのだ。そうしたら殺してしまったこちらは「ごめんね」と謝れるし、相手も「いいよ」と許すことができる。喧嘩の後の仲直りのようなもので、それは、より深い友情に繋がる。

書いていて楽しくなってきた。というか、最強の人間関係の構築方法を、僕は今しがた発見した。上記のような工程を経て友情が深まるのであれば、周りの友達を夢の中で殺し続ければいいのではないか?彼らの脳内にアクセスして夢の中に登場することができれば、もうミッションの八割は完了したと言える。あとは相手に何かしらの危害を加えるだけで、後日その友人からは「夢の中で殺されたわw」と連絡が来て「マジかすまん、そんなつもりはなかってん」と返して、めでたく友情を深めることができる。

なんとすごい発見だろうか。普段は自画自賛などしないが、これは本気でノーベル平和賞を狙えるのではないか。

しかし、ノーベル平和賞を狙うとなれば「殺人」はいかがなものか。
平和賞を決める円卓での評議員の姿を想像する。「今年のノーベル平和賞、どれにする?」と言う白人男性の横で「夢の中で殺人・・・まあなんて恐ろしいのかしら!」と赤毛の眼鏡をかけた女性が悲壮な表情を浮かべるだろう。それにつられて「殺人だって?それは論外じゃあないか?」と言うアジア人男性、「いや、殺人が非道だというその論理自体が先入観に囚われているわ」とこぼす北欧系の女性が出てくる。そうなると、終いには平和賞を決める卓上が戦場に変わってしまうかもしれない。
ただその前に却下される可能性が高いので、やはり「殺人」以外のテーマが望ましい。なんだろう、「新幹線を一気飲みする」とかそういう系だったら採用されるのだろうか。

 

「この前、野狐が夢に出てきて新幹線を一気飲みしとったで」
「マジかありがとう、君にもそのポテンシャルはあると思うで」
こんな会話で、互いのポテンシャルを認め合い、友情が深まる。

 

「コノマエ、アナタ、ボゥレットレイン、一気飲マイエイ!」
「オーウ、アゴザマス、アナタも、ボゥレットレイン一気飲マイエイ!」
イタリアで対立していたマフィアのボス同士が、銃を捨てて笑い合っているのが想像できた。

 

「前夜夢於、貴特急列車凄勢口入、我見、我大驚也!」
「其夢聞我嬉、特急列車、互口中入、大祝也!」
中国大陸の端と端、電波に乗せられた中文で友情が深まっていくのが想像できた。

 

「ピカピカァ!ピカピカピー、ビカ!ピカピカァピィ!」
「ニャア!? ニャニャニャ、ニャニャーニャニャニャ」
ピカチュウジバニャンがテレビ画面の中ではしゃぎまわるのが想像できた。
ジバニャンがどんな鳴き声かもわからないのに想像できてしまった。ジバニャンって喋るんだっけ。

 

世界中の人々が互いの夢に登場しあい、新幹線を一気飲みする。見た人は、吞み込んだ人に連絡を取り、そこで新たなブラザー(認め合った仲)となる。各国の大統領や首相も、互いに新幹線を吞み込み合う夢を見る。軍の最高指揮官が永世中立国の大使館にLINEを送る。銀河系外の地球外生命体が、地球に咲く一輪の花に向けて信号を発信する。全ての人、人ならざるもの、遠い宇宙の生命体までもが、新幹線を吞み込むことでひとつになる。平和。素晴らしい世界だ。

と思っていたらアラサー女子から新着メールが入った。

 

「やばいよね。前も野狐たんに人体実験される夢みたし。潜在的にこいつは危険だって思ってて、その警告なのかな?笑」

 

確信した。
これでは世界は平和にならない。