るなてぃっく野狐

野良狐がゆっくりと錯乱していく

あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。

西加奈子さん、「サラバ!」の最終章の題である。本を読むときは何冊も並行して読む癖があるため、この本を読むのに1ヶ月もかかってしまった。

 

あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけない。

 

あらためて、いい言葉である。読み終わってからしばらく、僕は目次を見ながらそんなことを考えていた。

 

最近僕は昼休みになると、隣に座る上司に<運命のくじ>を引いてもらっている。メモ用紙を3つ、時に4つに破り、それぞれに僕が昼休みに取りうる行動を書く。小さく丁寧に折り畳み、コンビニの袋に入れ、上司に「はい」と差し出すわけだ。今日は4つの選択肢があった。

 

1. ラーメン

2. マンナンライフ

3. ブログ

4. 睡眠

 

当然ながら金星はラーメンであるが、言わずもがな26という年齢になると、身体はどんどんスライムのようにぽよっていくものだ。まずここで僕は葛藤する、ラーメンを食べてもいいのか、マンナンライフで我慢すべきかと。そのため、この葛藤の所在を自身ではなく、他人に預けることにした。

ブログも重要な選択肢である。22時まではベローチェで小説を書いたり勉強をしているので、ブログとピアノは実質、夜の時間帯にしかできない。ブログを昼休みに書けば、ピアノを練習し、夜眠る時間もできる。

対して睡眠はより直接的な欲求だ。正直ここしばらく、ろくに寝ていない。昂ったテンションでAmazonを徘徊した結果「ピアノかっけぇー」という結論に至り、3日後には家に電子ピアノが届いていたせいである。何って、もう全然弾けない。弾けなさすぎて笑ってしまう。楽譜を買って練習しようとするもそもそも楽譜は読めないし、両手は同じ動きをしようとする。日本人ならではの集団心理を僕は両手の中に垣間見た気がした。とにかく寝たい。可愛らしい甘えも僕は選択肢の中にひそませた。

 

袋の口を差し出すと、34歳の上司は「っしゃぁ!」と言って、袋からくじをひとつ抜き出した。

「ブログ…ブログってなに?」

彼がそれを引いたため「ブログかぁー」と言って僕ははてなブログを開く。ぎゅるると鳴る腹をおさえ「先輩、これは他のとでも一緒にできるので、もうひとつひいてください」と頼んだ。ブログってなに?という上司の質問を軽く流し、彼に袋の口をまたと向けた。

マンナンライフ…??」

またもやラーメンじゃなかった。おいラーメン!俺と近づけば楽しいことたくさんあるぞ!こっちこいよラーメン!!! と心の中で叫んでから、僕はマンナンライフを一気に搾り上げて飲み込んだ。「終わったので、もうひとつ行きましょう」マンナンライフが胃に落ちる感覚を抱きながら僕はまた、上司の手を袋の中に入れてもらった。

「睡眠」

またしてもラーメンではなかった。4枚のうち残っているのは唯一、ラーメンだった。彼は、最後まで出てきてくれなかったのだ。なんとも悲しい。

カフェの店員にラブレターを渡すつもりで足繁く通うも、書き上げたその日に彼女が辞めてしまうというくらいの悔しさである。

 

僕はラーメンに思いを馳せながら、しかし上司の決めた僕の運命に逆らうこともできず、ブログを書き出した。最初はパソコンで打っていたのが徐々に眠気は限界に、やがて休憩室のソファに寝転びながらスマートフォンで文章を打っていった。

 

「これを書こう、あれを書こう」

色々と文章は思い浮かんでくるも、その実手は動いておらず目も開いておらず、12時59分のチャイムに呼び起こされた。

色々考えながら寝た直後に来る覚醒は身体に悪い。心臓はバクバク鳴っているし、頭もぐわんぐわんする感覚がしばらく続く。これを果たして寝た、ということができるのだろうか?僕は書き上がっていない原稿を見ながらそんなことを思った。

 

いや本当に、結局ちゃんとできたのはマンナンライフを食べるくらいだ。

誰かに決めてもらった人生を歩むことのできる人間は、それはそれで素晴らしいと思います、はい。