るなてぃっく野狐

野良狐がゆっくりと錯乱していく

JRが中長距離カップル証明書を発行したらみんな(特に野狐)が幸せになる


「日曜日の朝。
前日に恋人とした電話はまだ繋がっていた。そばに置いている電話のスピーカーからは彼女の寝息が聞こえていて、僕はその寝息に心地よさを覚えていた。そして「会いたいな」と思うのであった。彼女は東京に住んでいる。一方の僕は京都だ。先週会ったばかりだが、その距離も相まって、僕は彼女にたまらなく会いたかった。

しばらくすると、電話の向こう側からがさがさと音がした。起きたのだろう、それまでのもぞもぞとは違って、音は明瞭で意思を持っていた。
「おはよう」
そう言うと、彼女もおはようと返してきた。その声はたまらなく愛おしくて、僕は昨夜からずっと続いている胸の締め付けをあらためて感じた。きゅっと心臓を持っていかれるような、甘酸っぱさのある安らかな感覚。
しばらく会話をして、午前11時頃。ベランダに出てパーラメントに火をつけた。椅子に腰掛けて、空を見上げる。昨日と同様、今日も空には雲ひとつなかった。その景色があまりにも綺麗に見えたのは、彼女と今こうして繋がっているからなんだろうな、と思う。僕はいよいよ我慢できずに切り出した。
「ねぇ、今から会いに行ってもいい?」
京都から東京までは、行こうと思えば新幹線一本で行くことができる。しかし、日曜の昼間だ。これが金曜日の夜中とか、せめて土曜日の朝だったら彼女も快く了解してくれたことだろう。次の日には会社に出なければならないし、会える時間はせいぜい6時間程度。多分同じことを彼女が提言したら僕は「それは勿体ないよ!」と言うので、彼女の気持ちはわからないでもない。だが、好きなのだ。その気持ちをただ抑えて日曜の晴天のもと1日をやり過ごす術など、僕は持ち合わせていなかった。

急いで準備をして、13時前の新幹線に乗る。
3列シートの窓側には同い年くらいの男性が座っている。足元に買い物袋がたくさん置いてあった、関西以下に住む恋人と買い物にでも行ったのだろうか。斜め前には、マフラーを編む女性が座っていた。そのマフラーは、クリスマスのために一生懸命編んでいるのだろうなというのがわかる。
新幹線には、おそらく僕のような中距離恋愛をしているカップルが数人は乗っている。ひとつの車両だけで数人いるのだから、全体で見ればある程度の数はいることだろう。三連休などならずとも、好きという気持ちで僕らは日本のある地点からある地点までへと移動していた。そう考えると、JRはとてつもなく良い仕事をしているのだなと思った。出張時は「新幹線がなければそれだけで1日つぶせるのに」と愚痴をこぼしていたが、会いたい人がいれば愚痴は一気に感謝に変わった。新幹線があるから、僕らは歩けば何日もかかる距離を数時間で行けてしまうのだ。

そこで僕は思った。
中距離恋愛をするカップルにとって、新幹線は神の化身とも言えるほど重要な存在なのだ。
カップル限定のキャンペーンがあってもいいのではないか、と。ネットで調べてみたが、該当するようなキャンペーンは一切やっていなかった。仕方なく、僕はそれを企画することにした。企画するだけであって、僕はJRとは一切関係ない。
よって、以下は野狐による「JRのカップル限定キャンペーン(妄想)」である。


☆終着駅は愛する人の腕の中☆
カップル限定、自由席割引キャンペーン

■キャンペーン内容
「中長距離カップル証明書」を発行したカップル限定で使用できる割引サービス。
証明書の発行は緑の窓口にて。年会費1カップル5万円、有効期限は1年。
特急券・自由席券が、証明書を見せればなんと通常価格の3割引にて購入できます。

もしそんなキャンペーンがあったら、僕は即、緑の窓口に行って購入をするだろう。
京都ー東京間で見れば、片道の割引はおよそ3900円、1万円という数字を切るわけである。合計12回新幹線に乗ることで年会費の元を取ることができる(つまり、6回会えば達成なわけだ)。もちろん金銭的なメリットもあるが、これによってもたらされる最大の恩恵は「今までよりも少し会いやすくなる」ことだ。会いたいのに会えない、会いたいけれど甘えられない、そんな想いを少し和らげてくれる。気持ちの面でのサポートである。中距離恋愛のカップルたちは心も身体ももっと近くに感じることができるし、それによって会いたいという気持ちも強まっていくだろう。
JRにとってもこれは大きなメリットになる。年会費の件があるから、カップルはなるべく多く会おうとする。自由席に限定されているため、ビジネスで行き来する人々の邪魔にもならない。さらに、こんな粋なキャンペーンをするJRの評価は右肩上がりだろう。ああ、楽しそう。やってみたい。こういう企画をやってみたい!JRさん、なんかやってくれませんか、こういうの!?

車掌さんに声をかけるのを我慢しながら、そんな妄想を胸の奥に静かにしまった。
あと五分後には、会いに会いたかった彼女と会うことができる。
新幹線さまさま。文明の力にひたすら感謝する。

ではみなさん、また帰りの新幹線でお会いしましょう。」

 

と書いたのが一日前の昼下がりのことだった。

結局、京都に戻るのは朝に。

 

※この記事は野狐の惚気たい一心で書き進めました。
※野狐はルナティックですが恋人は妄想や二次元、ストーキングしている人ではありません。三次元に実在するしっかりとお付き合いをさせて頂いている方です。

子どもには、こんな大人になってほしくない

久しぶりの更新である。

仕事の都合で、残りの人生を全てスペインで過ごすことになるかもしれないと何度不安になったことか。なんとか、また日本の地を踏むことができた。

あらためて思う、日本は素晴らしい場所である。料理にしても、仕事にしても、日用雑貨を買う上でも、日本ほど快適な環境はない。慣れだろうか、長らく日本に住んでいるからだろうか?いや、おそらく海外の人からしても同じことだろう。僕はそう思う。ビバ、ジャパンである。

 

帰国した翌日に会社に出た日のこと。

まだ出張の疲労が残っていたが、午前中はレポートと清算、午後からは仕事の引継ぎを行う予定であった。日本を離れている間、他の仕事を先輩方に託したのだから、早期の引継ぎを行うのは当然のことである。午前中、隣に座る34歳上司は今か今かと機会をうかがっているようにすら感じた。

 

当の僕は、午前中にお金の清算をいち早く済ませ、レポートを全て提出したが、そこで全ての体力を使い切ってしまったために、昼休みはセミの抜け殻のような状態になっていた。

昼ごはんに宅配注文したココイチのカレーをカブトムシのようにちびちびと食べながら、その後はオフィスにあるソファに寝転がりながら午後の挙動について考えた。散々考え、葛藤を乗り越えた挙句、僕は「仕事を忙しくしている雰囲気」を出そうと決めた。

「何、今日一日だけだ、毎日そんなことをしていたら人格否定されても仕方がないが、出張帰りの一日くらいであれば万一バレたとしても周囲は暖かい目で見守ってくれるだろう」

そう優しく囁く、悪魔の一言が決定打だった。

 

結果、僕はその日「超忙しそうな人」という状態のまま、一日を終えることができた。

ここでいくつか、有効な具体例を紹介しよう。仕事に疲れて休みたいときは、是非有効活用してほしい。

 

①受信ボックスにあるメールに対して一通り意味不明な返信を行ってから、破棄する

達成事項→キーボードの音を社内に響き渡らせることで仕事している雰囲気が出る

Hello Michael, It’s a great honor to have in contact, we are now in Tanzania and I’m now looking at some used cars which were exported from Japan. The cars look really nice, I see barely any damage and the quality—as you now Japanese people cherish their belongings—were nearly just as it was a new car. Well that’s all about business, my main purpose was to come meet my friend here and we talked about our new business starting from this October. The story comes out quite fascinating but I do guarantee that it will become one big project, it’s something I surely think you will also want to make investment in. Maybe you should also come to Tanzania one day or even to Japan, if you have the interest, I’ll talk to Mr. Zanzai and organize the meeting with you. Of course Skype is one option, but believe me, you should directly meet him and “feel” his passion.

あらためて読み返すと、それはどこからか届く迷惑メールのような内容であった。タンザニアのザンザイさんという人も、宛先のマイケルさんという人も、中古車も、新しいビジネスも何も知らないし、第一僕はタンザニアになんて行ったこともないが、全てはキーボードをたたくためのメールであるからいいのだ。文章を羅列しているだけだと考える仕草がなく、リアリティが薄れてしまうため、たまに首をかしげ、歯の隙間から息を吸い込み、いくつか単語を消してからまた同じ単語を打ちなおすことがポイントである。

 

②会社にかかってくる電話をいち早く取る

達成事項→他社員との頻繁なコミュニケーションを図ることで存在感を示す

キーボードをたたきながらも、電話が来たらすかさずに取る。この素晴らしい対応力ができたら、たとえベテランであっても一目置くのではないだろうか。会社の電話は、携帯とは違い、“ぷるるるる”と鳴る前に、赤く点滅する仕様となっている。この赤点滅の時期を見計らって、誰が取るよりも前に電話を取るのだ。こうすることによって、「神の反射神経を持つ男」という評価をしてもらえるだけでなく、社内に「〇〇さん、●●さんです、1番です」とか言う自分の声が響き渡り、存在感を出すことができる。たまに電話をとらないことが、より一層リアリティを出すことにつながる。

 

③デスクトップにあるエクセルファイルをPDF化し、PDF化したデータを破棄する

達成事項→書類を作成しているような雰囲気が出る

無論、ただキーボードをたたいて、電話を取るだけでは仕事をしている雰囲気は出ない。書類を作成したという実績は、エクセルやワードをPDF化したときに初めて評価される。だから僕は、メールをひと通り打ったあと、デスクトップにある適当な見積書をPDF化して並べた。そして、いくつかを並べた後に電卓をたんたんと叩き、よくわからない数字を導き出してから、勢いよくそれらをゴミ箱に移した。

これは仕事をしている雰囲気を出すだけでなく、あまりに意味不明なその行動にある種のエクスタシーすら覚える。作ったPDFを一気にゴミ箱に放り投げる気持ちよさを、一度味わってほしい。

 

④作りかけのエクセルの表を

 

実はまだいくつかあるのだが、そろそろ帰社の時間も近づいてきたので切り上げるとしよう。

定時である。

ビバ、定時!!

方向音痴の方向音痴による方向音痴のための考察

夜の11時に目が覚めた。

昼間にスペイン人に連れられ、大量の昼飯を食べさせられたせいだろう。本当にすごい量だった。起きた瞬間「やべぇ、あの肉まだ残ってやがる」という気持ちになった。ちなみに夕飯ではない、昼飯である。
しばらく部屋の中をくるくる回ってみたが胃もたれが解消される気配もないので、僕は外に出ることにした。ウィンドブレーカーの下は半袖で寒かったが、歩き始めるとすぐに身体は温まった。

 

スペインに来てからというもの、ろくな運動をしていなかった。日本でも大した運動はしていないが、それでも一日一万歩と、爺さんが健康のために歩く歩数くらい歩いている。こちらに来てからは、少ない日は一日500歩くらいである。iPhoneにデフォで入っているヘルスケアの結果だ。(ちなみにこいつはなかなか優秀で、一日に上った階数なんかも表示してくる。大した情報ではないが、たくさん上った日なんかは、反映された数字を見てちょっと嬉しい気持ちになれる。)

 

歩き始めたはいいが、どこを歩くか、まだ決めていなかったことに気づく。僕は観光に興味が全くないし、深夜近くの街で開いている場所は飯屋くらいである。徘徊は好きだが、徘徊ひとつにもコンセプトは必要。

しばらく歩きながら考えた結果、街の一番高いところに行くことにした。日中に嬉しい出来事があったからかもしれない。不思議と、いいことがあると、僕は高いところに行きたくなる。高いところに行って街を一望して、適当な音楽を聴きながらその場で呆ける。そういう場所を探し求め、とにかく上を目指して僕は足を進めた。

あらためて気づかされる、ビルバオは坂がとても多いのだ。盆地というか、とにかく傾斜40〜50度くらいの坂が市街地の周りにずっと続いている。その坂の一帯に住宅街が密集しているのが下から見てもわかった。海外だなぁ、と思う。日本も住宅街は密接しているものだが、大体が平地にある。坂の傾斜に沿って段々と家が並ぶ風景は、日本ではあまり見ない。

僕は住宅街を歩き回る不審者にはなりたくなかったので、住宅街の少し外れにある広い道を通って上を目指すことにした。途中、廃れた線路のない電車の駅を通ったり、青い光が漏れ出る建物を通過したりした。30分ほど歩き、半ば息を切らしているところで、頂上付近にたどり着いた。

頂上からの景色は綺麗だった。カメラに収めるとその景色は一気に安っぽくなってしまったが、街の明かりがきらきらと輝き、さんざめくのを、無心で僕はしばらく見ていた。しばらく見ていたら飽きてきたので、ホテルに戻ることにした。


さて、この日記のタイトルは方向音痴の方向音痴による方向音痴のための考察、である。ここまでの時点である程度の予測はついていると思うが、僕は方向音痴である。方向音痴が何も考えずに知らない土地を歩いた結果、迷子になるのは必然と言えるだろう。ここスペインでも、今日僕は迷子になった。だから、僕がどういった過ちを犯し迷子の深淵に足を踏み入れたか、客観的な考察を行い、世の方向音痴を正しい方向に導きたいと思っている。まさに、方向音痴の方向音痴による、方向音痴のための考察。

 

頂上から坂を下り始める時、僕は来た道を戻るようにして戻った。これは極めて正しい選択である。「来た道を戻る」は鉄則だ。

しかし数分後に問題が発生する。分岐点の登場だ。坂を上る時は分岐点などないと思っていた。下ってみると、右と左にそれぞれ道が分かれている。暗い道と明るい道があり、迷った挙げ句「来た時は人気がなかったから、暗い道かな」と思って右の道を進む。

そこから歩き続けると、これまた見覚えのない分岐にさしかかった。来る時、分岐があるたびに確認しておけばよかったのかもしれない。そういう細かいところにまで気がいかないから、迷うのだろうなと思った。

ふたつの道を見比べていると、片側に猫がいるのを発見した。こちらをじっと見て微動だにせずで、警戒しているのがわかった。ゆっくり近づくと、やつは道のさらに逸れたところに逃げていく。僕はその後を追いかけて、脇道に入っていった。猫は少し遠くからこちらを眺めていたが、僕が猫に向かって一歩歩き出したところでまた逃げられた。ひょいっと奥の通りを左に入っていったので、僕も後を追ったが、結局それ以降猫には会えなかった。

さて、一通り猫について行ったところで、僕は自分が住宅街の中にいることに気づいた。恐らく、上る時に見た、段々の住宅街だろうと推察できた。位置関係を頭の中で整理する。来た時は右にあったから、おそらくこれは右に進みすぎているのか・・・?この辺りからよくわからなくなった。とにかく坂を下っていけば辿り即くだろうと考えるのを辞め、住宅街の中にある階段をどんどん下っていく。

住宅街を抜けると、しかし、結果的に僕は知らぬ場所にたどり着いていた。なおも坂道が続くので、道半ばなのは明確だったが、左か右か、全く判断できない。建物で先の視界もあまりよくなく、とにかく真っ直ぐ下ることにした。この辺りから、僕は「もしかしたら自分は迷子なのではないか?」という疑問を抱くようになる。客観的に書いていて「馬鹿か、とうに迷っておるだろう」とツッコミを入れたくなったが、この時点まで、僕は「迷ってはいるものの、正しい道を選択している」と信じ切っていた。この根拠のない自信が、足取りを軽くしていたのもまた事実である。だからあそこまで行けたのも事実だ。だが、ふと我に返り、これは迷子か?と気づくと、心は少しずつ焦りを感じるようになるものだ。

僕はとにかく、あの青い光の発光する建物か、線路のない電車の駅を探すことにした。下に行くことを最優先事項とし、分岐があれば適度に左右に行く。ジグザグ走行である。これを行うことにより、自分の記憶に新しい場所を見つけられる可能性が高まる。結果的に言えばこのジグザグ走行は全くの無駄だった。あのとき真っ直ぐ下っていれば、少なくとも川に出て、どちらかに歩けばホテルにたどり着いたはずなのだから。


往路に30分かかった散歩は、復路では1時間かかっていた。着いた時に安堵で胸を撫で下ろしたい気持ちに激しく駆られるが、周りには迷子だったことを悟られぬよう、僕は平然とした顔でホテルの中に入っていく。

 

 

だらだらと長くなり、この日記の方向性も迷子になりそうなので、最後にしっかりとまとめよう。方向音痴の方向音痴にるよる方向音痴のための考察。

 

【迷う原因】
 ・何も考えずに歩く
 ・生き物についていく
 ・迷子であることに気づかない

 

【解決する方法】
 ・往路に道を確認しながら歩く

 ・生き物がいてもついていかない

 ・自らの方向認知能力の欠陥に気づく

 

ホテルのロビーに入ってから、僕は運動のためエレベーターを使わずに階段で、自室のある7階まで上った。7階に着いてから、今日果たして何階分上ったのかを確認しようと思いヘルスケアを開いた。ふと、ヘルスケアアプリの隣にgoogle mapがあることに気がつく。ポケットに無線wi-fiも持っていたことに気づく。

あ、と思う。

 

【解決する方法】

 ・往路に道を確認しながら歩く

 ・生き物がいてもついていかない

 ・自らの方向認知能力の欠陥に気づく

 ・google mapを使用する

”睡眠不足”でA級ホラーは作れるのか

つい昨日知り合いになった女性がいる。

睡眠不足らしい。確かに、睡眠不足だろうなという独特の雰囲気を醸し出しているし、夜行性だから睡眠不足はなって然りの状態である。何通かメールをしている中で、彼女からメールでこんなフレーズが送られてきた。

 

「睡眠不足、そう、常に」

 

それはホラー映画のキャッチコピーのように思えた。無垢な女の子に睡眠不足という怪物が絶えず襲いかかってくる。彼女はその恐怖から逃げようとするが、睡眠不足は彼女を視界から逃がさない。どこにいても、何をしてても、彼は彼女について回る。睡眠不足、そう、常に。

このキャッチコピーは素晴らしい。例えば「睡魔が擬人化して襲ってくる」ならまだ容易に想像が付くも、睡眠不足が襲ってくるのは想像に難い。なかなかにニッチな分野を開拓した、新たなジャンルのホラー映画が出来そうな気がした。

しかし、キャッチコピーに襲いかかる事物そのものが書かれてしまうと、映画のタイトルにインパクトがなくなってしまう。

『睡眠不足 "睡眠不足、そう、常に"』

弱い。たとえタイトルをカナやローマ字に変えても、ぱっとしなかった。どうしても睡眠不足が続いてしまう感が出てくる。深読みする映画評論家であれば「いや、睡眠不足って単語が続いているのはね、ちゃんと理由があるんですよ。睡眠不足になると思考力が低下するって言うじゃないですか、その症状を表現したコピーなんです。うん、これ考えた人はなかなかの思考をしてますよ。それか本当に睡眠不足なんでしょう」とかコメントしてくれるかもしれない。だが、これが京都河原町のMOVIXで上映が決定して、集まってきた若者がコピーを見て同じような反応をするだろうか?

おそらく、しないだろう。コピーを気にも留めず、擬人化した睡眠不足がどんな出で立ちであるかしか想像しない。題名とコピーがそれぞれ相乗的に効果を発揮しなければ、ホラー映画の品質そのものが低下してしまう。

 

余談だが、邦題で『道化(どうか)してるぜ』という殺人ピエロのホラー映画がある。駄洒落で出落ち感満載のZ級ホラーを想定していたものの、実際に見ると内容は呪怨やリングにも引けを取らないA級だった。あれは完全に方向性を間違えている気がする。確かに怖そうな題名にすると他のB級やC級に埋もれてしまう可能性はあったろう。しかし、何故親父ギャグをぶっ込んで来た・・・映画を見終わってぽろりと出た感想はそれだけだった。

 

話を戻す。睡眠不足そのものは、ホラー映画の題材としては十分に生きる素材だと僕は思う。上述の映画のように、出落ちで終わる映画になんてしたくない。睡眠不足という怪物に、みんなに恐怖して欲しい。だから僕は、それぞれの階級に合わせ、題名とコピーを付けてみた。

 

『スイミンブソク "東京全域を襲う悪魔"』
怖さ:C級
概要:残業が絶えない現代社会。東京は新橋、中小零細の保険会社で働く豊田和宏は、この数ヶ月ろくに睡眠をとっていなかった。慢性的な睡眠不足が続くある日、豊田は自殺を決意する。オリジン弁当で最後の晩餐を買い、オフィスに戻る最中、しかし、それは突如として襲いかかってきた。必死に逃げる豊田は、自らがまだ生きていたいということに気づく。果たして彼は怪物から逃げられるのか?そして、安眠できる日は来るのだろうか?東京を舞台にした怪物系パニックホラーの集大成、ここに誕生。

 

『SUIMINBUSOKU "生きてる限り、彼からは逃げられない"』
怖さ:B級
概要:アメリカの北部に、地図にも載らないような小さな村がある。そこは過疎が進む一方であったが、決してなくなることはなかった。限界集落撲滅のため、現地調査に乗り込んだシェリーとアレンだったが、彼らはそこで衝撃の真実を目撃する。"SUIMINBUSOKU"という神を崇める村民たち。八十年間寝ないで生き続ける老婆。そして夜な夜な、二人の泊まるコテージに忍び込む気配・・・。モキュメンタリーとCGを組み合わせた、今までにないサイコスリラー。


A級
『Sleep Deprive "奴らは必ずやってくる"』
怖さ:A級
概要:ハリウッドスターのジェイコブは今日もヤクでハイになる!薬まみれの酒池肉林、彼にとってそこはパラダイス・・・の、はずだった。パパラッチのスクープに全米から非難の的となった彼は一転、地下鉄ホームの住人となった。その頃から、彼は"ある"幻覚症状に悩まされ始める。他人の"睡眠不足"を吸収してしまう特異体質を感じるようになり、ニューヨークの地下鉄を利用する人々の負のエネルギーは一挙に彼に集中する・・・果たしてそれは現実なのか、それとも、薬物の副作用か。鬼才ヤコブ・アンデルセンが、実話に基づく話を生粋のサイコサスペンスに昇華させる。その恐怖は、必ずあなたの元にもやってくる・・・。

 

とまあ、、、こんな感じだろうか。
何気なく書き始めたブログだったが気づけば2時間ほど経っていた。何をやってるんだ、僕は。

掃除の神様

僕は今スペインの北部、ビルバオという地にいる。

仕事の都合で出張に来ていて、一ヶ月ほどの滞在なのでホテルを取っている。このホテル、一日100ユーロなのだが、部屋の広さで言えば日本のヒルトンのツインルームくらいの広さである(とか言いながらヒルトンのツインに泊まるほどのリア充ではなくあくまで予想)。

これほどまでに広い部屋であれば、清掃の人も大変だろうなと思う。日本のビジネスホテルみたくいろいろ密集していないから、掃除に苦労することが容易に想像できる。そのうえ、持ち前の寝相の悪さで朝起きたらベッドはふたつともぐちゃぐちゃになっているので、清掃の人は二つ分のベッドをメイキングしなければならない(一応ベッドメイキングするのだが、あの職人技並の綺麗さにはとてもじゃないができない)。

そうやって部屋荒らしの生活が一週間ほど続き、ようやく先週の土曜日休みに入った。平日は朝から夜まで活動していたので、土曜日はゆっくりしようと決めていたが、昼頃になって小腹がすいたため、コンビニに行ってチョコバーでも買おうと出る支度をした。寝ぼけ眼のままパーカを羽織りドアを開けると、黒い半袖のポロシャツを着た、中東系の顔立ちの男性がノックをする姿勢で僕と目が合った。

ドアを開けて予想だにしない展開で僕は一瞬ひるむが、黒服ポロシャツと彼が手に持っていた雑巾のおかげで、彼が「掃除のおじさん」であることはすぐに認識できた。

"Hola" と言うと、
"Hola, ▽#%?〇((〇///...??"

と突如、訳の分からないスペイン語を彼は笑顔で話してきた。勿論訳がわからないわけではない、Holaと言っているのだがそれは明確にスペイン語なのだが、僕の使用言語にスペイン語は含まれていない。(大学の頃スペイン語第二言語で取っていた僕。自慢ではないが、再履の達人である)。

"Uh, what?"

英語で返すと、彼は困惑した顔になる。今度は身振り手振りを付けてスペイン語を喋る。部屋の中を指し何かを拭く動作から、彼が「部屋の中を掃除しますか?」と聞いてきていると僕は推測した。

"Um, it's okay, it's still clean and I'll just come back in ten minutes, so I don't need a clean up"

英語は全く話せなさそうだから、ジェスチャーを付け加えた。手をお腹の前でパーにして細かく振る、日本人の典型的な拒否のサインで。
だが、彼はまだ何かを喋ってきた。部屋の中を指さして、掃除のジェスチャー。迷った挙げ句、僕は彼を部屋の中に招き「ほら、綺麗でしょ?」と言った。ベッドは一応形になっていたし、散らかした痕跡もない。バスタオルもまだひとつ、使用できる状態にある。我ながら綺麗に保ったものだと、鼻を高くして彼を見た。

すると、なんということでしょう。それまで笑顔だった彼は、部屋の中を見て、笑顔でなくなっていた。真顔だった。あれほど完璧なスペイン人の真顔を、僕はその日初めて見た。あれ、何か間違っているのか?と思いながら、僕は彼におそるおそる言う。

"So, you don't have to clean up the room, okay?"

だが掃除のおじさんは、今度は懇願するような顔で僕にスペイン語を喋ってきた。最後に "five minutos, five minutos" と指を三本立ながら言ってきた。5分か3分かわからなかったが、多分絞り出した"five"という英語を間違えたのだろう。彼はこの部屋を3分でいいから片付けさせてくれと言っていた。

え、俺の部屋そこまで汚いですか?と思いながら、そのプロ根性に僕は負け、頷きながら"Okay, then please, muchas gracias" と言う。すると彼は満面の笑みで廊下にあるかごへと駆けていった。

 

スペインはアメリカなどと違い、チップの制度はない。だから彼が何故そこまで掃除をしたいのかがわからなかった。コンビニでポテトチップスを買いながら、あのおじさんの笑顔を思い出す。そして、真顔になった瞬間も思い出した。その目は、部屋の隅々までをも見ているかのような目だった。・・・おそらく彼は、掃除の神様なのだろう。掃除をすることに人生の全てを捧げ、これからも捧げるつもりでいるのだろう。掃除の代名詞として、彼の顔は僕の中で生き続けるだろう。

 

エレベーターの中で時計を見ると、ちょうど十五分外出をしていた。もう戻っても、おじさんは部屋にいないだろう。全てが綺麗になっていて、彼が存在していた痕跡すら残さないのだろう。少しだけ、不安になった。あのおじさんは、掃除をすることで、全てを綺麗にするだけでなく、自らの存在をも消してしまうのではないか。部屋に入った瞬間、僕は「この部屋は掃除された」という事実さえもなくなってしまうのではないか。掃除の神様なのだ、記憶も片付けられても、不思議ではない。

 

部屋に戻ると、ドアが開いていた。

 

おじさんはまだ掃除していた。

警官の「止まれ!」前振りが言葉としては弱すぎる件

海外の映画なんかを見ていると、よく警察官が逃げる犯人に "Freeze!" と叫んでいる。もちろん、あれで止まるはずがない、とほとんどの人が思うだろう。僕が犯人だったら絶対に止まらない。しかし、悪いことをしたと分かっている犯人以外の人間は、おそらくその言葉を聞いたら、その瞬間固まるだろう。声のする方向に顔を振り向けて、その場からは動こうとしなくなる。警察の "Freeze!" は実は、犯人のためではなく、誤射をなくすために周りの人を止めるための発言なのかもしれないな、と、今日街中を歩きながら思っていた。

さて、この "Freeze!" の真意は知る由もないし、知る必要もないと僕は思っている。そもそも逃げる犯人に「止まれ!」と叫んでも、少し言葉を強め「止まらなければ撃つぞ!」と叫んでも、それは犯人自らが逃げ、撃たれるようなことをしているということであり、本人の中では当然自覚があるはずだ。もし自覚なき犯行であれば、犯人はそもそも逃げない。


では、何を言えば犯人を止めることができるのだろうか。いろいろと考えた結果、3つくらいの候補が頭に浮かんだ。止まる犯人が想像できる。


ケースその1 芸能人

警官1「おい、あれはもしやクリスチャン・スチュアートじゃあないか!?」
警官2「しかもなんたって街中を水着姿で歩いてるんだ!?おい、こっちに来るぞ!」
警官1「本当だ!ちょ、待ってくれ、今確かに俺はクリスチャン俺と目が合ったぞ!」
警官1・2「もう犯人は諦めよう、クリスチャンー!」

逃げる犯人が振り向いた時、そこに二人の警官の姿はない。しかし犯人は、水着姿の生クリスチャン・スチュアートが見たくてたまらない。逃げた道を戻り、水スチャンを見るため路地から顔を出す。その瞬間、警官二人が彼の身柄を抑えるのだ。(※犯人が女性だったら、パンツ一枚のロバート・デ・ニーロがこちらに向かってくる、という設定にすれば問題ない)


ケースその2 アルマゲドン

警官1「おい、ありゃあ一体全体なんなんだ・・・?」
警官2「あれは・・・おい危ない、警官1、伏せるんだ!」
轟音、後に爆発音
警官2「お、おい、お前、大丈夫か・・・?」
警官1「俺はもう、駄目みたいだ・・・しかし、お前は無事なようで・・・よかった・・・」
警官2「警官いちぃぃぃぃぃ!!!!!」
そしてエンディングロールのエンダーイアー、と曲が流れ始める。

振り向くタイミングにもよるが、犯人が止まった直後、警官2は撃てば終いである。ちなみにこれは、隕石の落下を引き起こせる人間がいなければならない。警官2にその能力が備わっていれば、警官1を犠牲にすることで犯人を逮捕できる。また、エンドロールの曲はまるでそこが映画館であるかのような臨場感を出すための設定なので、大型のスピーカーであれば問題はないが、可能であれば歌っている本人をステージに立たせるのが効果的と思われる。

 

ケースその3 パンティ&ストッキング
警官1「パンティ!!!!!」
警官2「ストッキング!!!」
犯人「は?」

以上である。意味不明なことを言うことにより、犯人の注意は容易に惹き付けることができるのだ。これは何もパンティ&ストッキングにこだわる必要はなく「イカ!!!」「明太子!!!」とかでもいい。「のり!!!」「パスタ!!!」とか。なるべく語呂がよく、一緒にあって違和感のないものを叫ぶのが良い。

一回で効果がない場合は、追いかけながらこういった単語を叫ぶのが良いだろう。どこかで犯人が「俺、それ好きやわ」となって振り向く瞬間があるかもしれないからである。

唯一注意が必要なのは、これでは警察の威厳が失われてしまいかねないということにある。街中をパンティ!とか、ストッキング!とか叫びながら走っていれば、セクハラとかで訴えられかない。イカ!とか、明太子!でも、人の感じ方によってはセクハラ。むやみに叫ぶことは警察の威厳をなくし、さらには窮地に陥れてしまう危険性が孕んでいるのだ。


結果的に見ると、一番効果的だろうと思えるのは三つ目の「訳分からないことを叫び続ける」ことだと思った。今後警察は、このブログを参考に、訳のわからないことを叫ぶといいだろう。

 

ちなみに、ググってみたら、どうやら警察が叫ぶのは一般人を止めて逃げ続ける犯人を認識するためだとかー。
ニアミスで最初の予想が当たってしまっていたので、なんとも複雑な気分です・・・。

巷のフリースタイルラッパー ピースマン

フリースタイルラップというものが巷では流行っている。「巷」がいまだにどこかわからない僕だが、まぁとにかく、この言葉を最近はテレビやら若者の会話の随所で聞くようになった。

 

フリースタイルラップが何かというと「適当に韻を踏んでyeahとかyoとかで締めるラップ」である。例えばこんな風に。

 

やってきたぜ俺らの巷

人口8割苗字が柴田

残りの2割は全員蒲田

ああこのフリースタイルラップ完全にアクシデント、俺まさにやっち・ま・た  yo!!

 

こんな風である。これがフリースタイルラップである。馬鹿にしているわけではなく、これが僕の限界なだけだ。そこはご了承いただきたい。

だが、初心者でも楽しめるのがこのラップの特徴である。テーマを選ばずとも、好きなことをフィーリングでuh uh に合わせて言えばいいのだ。

みんながuh uhと言いながらラップ調で会話を繰り広げていけば、もうこの韻踏みに必死になるに違いない。つまり喧嘩どころではないのだ。

 

車の接触事故が起こった。

「あらあらごめんyo わざとじゃないのyo♬」

「奥さん慌てずとりあえず uh 茶でもずずっと飲み干しゃ安心するはずぅ♩」

「あらあら若いのに随分 自分 寸分違わぬナイスガイhuh 公平性を重んじるわねイーブン♪」

「奥さん 俺の名はピースマン 覚えとらん? したら車のことはdone!」

 

強盗と鉢合わせした。

「おいお前 俺の部屋散らかした手前 今すぐやめたまえ♬」

「すまねぇ思わず地団駄踏んだ なんせ俺は強盗なんだ お詫びにそうだ こいつでどうだ?」

「なんだねこれは …もしやお前は uh uh♪」

「そう、俺は平和ー それは電話ー 平和の象徴鳩電話ぁcmon!」

 

戦争開始の合図が鳴った。

「攻撃するぜ 総勢ー 1000の兵士で駆け込むぜhun♪」

「このピースフルワールド 攻撃するお前は悪だ 俺は悲しいぜoh エンドオブワールド…」

「すまねぇそんなつもりじゃ ここじゃ強者じゃ なきゃ生き残れねえんじゃ…」

「争いに もう遅い なんてないんだぜcmon 」

「許してくれんのか ほな 俺の兵士全員下がらんか♩」

「平和を願ってピースサイン そのマークでサインコサインーyeah together…」

タンジェント!」「タンジェント!」

「yeah!!!」「yeah!!!」

 

なるほど、ラップで世界が平和になるという意味がこれでようやくわかりました。

でも楽しいので、一度声に出して韻を踏んで誰かと会話してみてください。本当に楽しいです。

相手のドン引き具合

めっちゃやべぇ場合

そう伝えるんだお前のeyeで全身全霊の愛!