るなてぃっく野狐

野良狐がゆっくりと錯乱していく

方向音痴の方向音痴による方向音痴のための考察

夜の11時に目が覚めた。

昼間にスペイン人に連れられ、大量の昼飯を食べさせられたせいだろう。本当にすごい量だった。起きた瞬間「やべぇ、あの肉まだ残ってやがる」という気持ちになった。ちなみに夕飯ではない、昼飯である。
しばらく部屋の中をくるくる回ってみたが胃もたれが解消される気配もないので、僕は外に出ることにした。ウィンドブレーカーの下は半袖で寒かったが、歩き始めるとすぐに身体は温まった。

 

スペインに来てからというもの、ろくな運動をしていなかった。日本でも大した運動はしていないが、それでも一日一万歩と、爺さんが健康のために歩く歩数くらい歩いている。こちらに来てからは、少ない日は一日500歩くらいである。iPhoneにデフォで入っているヘルスケアの結果だ。(ちなみにこいつはなかなか優秀で、一日に上った階数なんかも表示してくる。大した情報ではないが、たくさん上った日なんかは、反映された数字を見てちょっと嬉しい気持ちになれる。)

 

歩き始めたはいいが、どこを歩くか、まだ決めていなかったことに気づく。僕は観光に興味が全くないし、深夜近くの街で開いている場所は飯屋くらいである。徘徊は好きだが、徘徊ひとつにもコンセプトは必要。

しばらく歩きながら考えた結果、街の一番高いところに行くことにした。日中に嬉しい出来事があったからかもしれない。不思議と、いいことがあると、僕は高いところに行きたくなる。高いところに行って街を一望して、適当な音楽を聴きながらその場で呆ける。そういう場所を探し求め、とにかく上を目指して僕は足を進めた。

あらためて気づかされる、ビルバオは坂がとても多いのだ。盆地というか、とにかく傾斜40〜50度くらいの坂が市街地の周りにずっと続いている。その坂の一帯に住宅街が密集しているのが下から見てもわかった。海外だなぁ、と思う。日本も住宅街は密接しているものだが、大体が平地にある。坂の傾斜に沿って段々と家が並ぶ風景は、日本ではあまり見ない。

僕は住宅街を歩き回る不審者にはなりたくなかったので、住宅街の少し外れにある広い道を通って上を目指すことにした。途中、廃れた線路のない電車の駅を通ったり、青い光が漏れ出る建物を通過したりした。30分ほど歩き、半ば息を切らしているところで、頂上付近にたどり着いた。

頂上からの景色は綺麗だった。カメラに収めるとその景色は一気に安っぽくなってしまったが、街の明かりがきらきらと輝き、さんざめくのを、無心で僕はしばらく見ていた。しばらく見ていたら飽きてきたので、ホテルに戻ることにした。


さて、この日記のタイトルは方向音痴の方向音痴による方向音痴のための考察、である。ここまでの時点である程度の予測はついていると思うが、僕は方向音痴である。方向音痴が何も考えずに知らない土地を歩いた結果、迷子になるのは必然と言えるだろう。ここスペインでも、今日僕は迷子になった。だから、僕がどういった過ちを犯し迷子の深淵に足を踏み入れたか、客観的な考察を行い、世の方向音痴を正しい方向に導きたいと思っている。まさに、方向音痴の方向音痴による、方向音痴のための考察。

 

頂上から坂を下り始める時、僕は来た道を戻るようにして戻った。これは極めて正しい選択である。「来た道を戻る」は鉄則だ。

しかし数分後に問題が発生する。分岐点の登場だ。坂を上る時は分岐点などないと思っていた。下ってみると、右と左にそれぞれ道が分かれている。暗い道と明るい道があり、迷った挙げ句「来た時は人気がなかったから、暗い道かな」と思って右の道を進む。

そこから歩き続けると、これまた見覚えのない分岐にさしかかった。来る時、分岐があるたびに確認しておけばよかったのかもしれない。そういう細かいところにまで気がいかないから、迷うのだろうなと思った。

ふたつの道を見比べていると、片側に猫がいるのを発見した。こちらをじっと見て微動だにせずで、警戒しているのがわかった。ゆっくり近づくと、やつは道のさらに逸れたところに逃げていく。僕はその後を追いかけて、脇道に入っていった。猫は少し遠くからこちらを眺めていたが、僕が猫に向かって一歩歩き出したところでまた逃げられた。ひょいっと奥の通りを左に入っていったので、僕も後を追ったが、結局それ以降猫には会えなかった。

さて、一通り猫について行ったところで、僕は自分が住宅街の中にいることに気づいた。恐らく、上る時に見た、段々の住宅街だろうと推察できた。位置関係を頭の中で整理する。来た時は右にあったから、おそらくこれは右に進みすぎているのか・・・?この辺りからよくわからなくなった。とにかく坂を下っていけば辿り即くだろうと考えるのを辞め、住宅街の中にある階段をどんどん下っていく。

住宅街を抜けると、しかし、結果的に僕は知らぬ場所にたどり着いていた。なおも坂道が続くので、道半ばなのは明確だったが、左か右か、全く判断できない。建物で先の視界もあまりよくなく、とにかく真っ直ぐ下ることにした。この辺りから、僕は「もしかしたら自分は迷子なのではないか?」という疑問を抱くようになる。客観的に書いていて「馬鹿か、とうに迷っておるだろう」とツッコミを入れたくなったが、この時点まで、僕は「迷ってはいるものの、正しい道を選択している」と信じ切っていた。この根拠のない自信が、足取りを軽くしていたのもまた事実である。だからあそこまで行けたのも事実だ。だが、ふと我に返り、これは迷子か?と気づくと、心は少しずつ焦りを感じるようになるものだ。

僕はとにかく、あの青い光の発光する建物か、線路のない電車の駅を探すことにした。下に行くことを最優先事項とし、分岐があれば適度に左右に行く。ジグザグ走行である。これを行うことにより、自分の記憶に新しい場所を見つけられる可能性が高まる。結果的に言えばこのジグザグ走行は全くの無駄だった。あのとき真っ直ぐ下っていれば、少なくとも川に出て、どちらかに歩けばホテルにたどり着いたはずなのだから。


往路に30分かかった散歩は、復路では1時間かかっていた。着いた時に安堵で胸を撫で下ろしたい気持ちに激しく駆られるが、周りには迷子だったことを悟られぬよう、僕は平然とした顔でホテルの中に入っていく。

 

 

だらだらと長くなり、この日記の方向性も迷子になりそうなので、最後にしっかりとまとめよう。方向音痴の方向音痴にるよる方向音痴のための考察。

 

【迷う原因】
 ・何も考えずに歩く
 ・生き物についていく
 ・迷子であることに気づかない

 

【解決する方法】
 ・往路に道を確認しながら歩く

 ・生き物がいてもついていかない

 ・自らの方向認知能力の欠陥に気づく

 

ホテルのロビーに入ってから、僕は運動のためエレベーターを使わずに階段で、自室のある7階まで上った。7階に着いてから、今日果たして何階分上ったのかを確認しようと思いヘルスケアを開いた。ふと、ヘルスケアアプリの隣にgoogle mapがあることに気がつく。ポケットに無線wi-fiも持っていたことに気づく。

あ、と思う。

 

【解決する方法】

 ・往路に道を確認しながら歩く

 ・生き物がいてもついていかない

 ・自らの方向認知能力の欠陥に気づく

 ・google mapを使用する

”睡眠不足”でA級ホラーは作れるのか

つい昨日知り合いになった女性がいる。

睡眠不足らしい。確かに、睡眠不足だろうなという独特の雰囲気を醸し出しているし、夜行性だから睡眠不足はなって然りの状態である。何通かメールをしている中で、彼女からメールでこんなフレーズが送られてきた。

 

「睡眠不足、そう、常に」

 

それはホラー映画のキャッチコピーのように思えた。無垢な女の子に睡眠不足という怪物が絶えず襲いかかってくる。彼女はその恐怖から逃げようとするが、睡眠不足は彼女を視界から逃がさない。どこにいても、何をしてても、彼は彼女について回る。睡眠不足、そう、常に。

このキャッチコピーは素晴らしい。例えば「睡魔が擬人化して襲ってくる」ならまだ容易に想像が付くも、睡眠不足が襲ってくるのは想像に難い。なかなかにニッチな分野を開拓した、新たなジャンルのホラー映画が出来そうな気がした。

しかし、キャッチコピーに襲いかかる事物そのものが書かれてしまうと、映画のタイトルにインパクトがなくなってしまう。

『睡眠不足 "睡眠不足、そう、常に"』

弱い。たとえタイトルをカナやローマ字に変えても、ぱっとしなかった。どうしても睡眠不足が続いてしまう感が出てくる。深読みする映画評論家であれば「いや、睡眠不足って単語が続いているのはね、ちゃんと理由があるんですよ。睡眠不足になると思考力が低下するって言うじゃないですか、その症状を表現したコピーなんです。うん、これ考えた人はなかなかの思考をしてますよ。それか本当に睡眠不足なんでしょう」とかコメントしてくれるかもしれない。だが、これが京都河原町のMOVIXで上映が決定して、集まってきた若者がコピーを見て同じような反応をするだろうか?

おそらく、しないだろう。コピーを気にも留めず、擬人化した睡眠不足がどんな出で立ちであるかしか想像しない。題名とコピーがそれぞれ相乗的に効果を発揮しなければ、ホラー映画の品質そのものが低下してしまう。

 

余談だが、邦題で『道化(どうか)してるぜ』という殺人ピエロのホラー映画がある。駄洒落で出落ち感満載のZ級ホラーを想定していたものの、実際に見ると内容は呪怨やリングにも引けを取らないA級だった。あれは完全に方向性を間違えている気がする。確かに怖そうな題名にすると他のB級やC級に埋もれてしまう可能性はあったろう。しかし、何故親父ギャグをぶっ込んで来た・・・映画を見終わってぽろりと出た感想はそれだけだった。

 

話を戻す。睡眠不足そのものは、ホラー映画の題材としては十分に生きる素材だと僕は思う。上述の映画のように、出落ちで終わる映画になんてしたくない。睡眠不足という怪物に、みんなに恐怖して欲しい。だから僕は、それぞれの階級に合わせ、題名とコピーを付けてみた。

 

『スイミンブソク "東京全域を襲う悪魔"』
怖さ:C級
概要:残業が絶えない現代社会。東京は新橋、中小零細の保険会社で働く豊田和宏は、この数ヶ月ろくに睡眠をとっていなかった。慢性的な睡眠不足が続くある日、豊田は自殺を決意する。オリジン弁当で最後の晩餐を買い、オフィスに戻る最中、しかし、それは突如として襲いかかってきた。必死に逃げる豊田は、自らがまだ生きていたいということに気づく。果たして彼は怪物から逃げられるのか?そして、安眠できる日は来るのだろうか?東京を舞台にした怪物系パニックホラーの集大成、ここに誕生。

 

『SUIMINBUSOKU "生きてる限り、彼からは逃げられない"』
怖さ:B級
概要:アメリカの北部に、地図にも載らないような小さな村がある。そこは過疎が進む一方であったが、決してなくなることはなかった。限界集落撲滅のため、現地調査に乗り込んだシェリーとアレンだったが、彼らはそこで衝撃の真実を目撃する。"SUIMINBUSOKU"という神を崇める村民たち。八十年間寝ないで生き続ける老婆。そして夜な夜な、二人の泊まるコテージに忍び込む気配・・・。モキュメンタリーとCGを組み合わせた、今までにないサイコスリラー。


A級
『Sleep Deprive "奴らは必ずやってくる"』
怖さ:A級
概要:ハリウッドスターのジェイコブは今日もヤクでハイになる!薬まみれの酒池肉林、彼にとってそこはパラダイス・・・の、はずだった。パパラッチのスクープに全米から非難の的となった彼は一転、地下鉄ホームの住人となった。その頃から、彼は"ある"幻覚症状に悩まされ始める。他人の"睡眠不足"を吸収してしまう特異体質を感じるようになり、ニューヨークの地下鉄を利用する人々の負のエネルギーは一挙に彼に集中する・・・果たしてそれは現実なのか、それとも、薬物の副作用か。鬼才ヤコブ・アンデルセンが、実話に基づく話を生粋のサイコサスペンスに昇華させる。その恐怖は、必ずあなたの元にもやってくる・・・。

 

とまあ、、、こんな感じだろうか。
何気なく書き始めたブログだったが気づけば2時間ほど経っていた。何をやってるんだ、僕は。

掃除の神様

僕は今スペインの北部、ビルバオという地にいる。

仕事の都合で出張に来ていて、一ヶ月ほどの滞在なのでホテルを取っている。このホテル、一日100ユーロなのだが、部屋の広さで言えば日本のヒルトンのツインルームくらいの広さである(とか言いながらヒルトンのツインに泊まるほどのリア充ではなくあくまで予想)。

これほどまでに広い部屋であれば、清掃の人も大変だろうなと思う。日本のビジネスホテルみたくいろいろ密集していないから、掃除に苦労することが容易に想像できる。そのうえ、持ち前の寝相の悪さで朝起きたらベッドはふたつともぐちゃぐちゃになっているので、清掃の人は二つ分のベッドをメイキングしなければならない(一応ベッドメイキングするのだが、あの職人技並の綺麗さにはとてもじゃないができない)。

そうやって部屋荒らしの生活が一週間ほど続き、ようやく先週の土曜日休みに入った。平日は朝から夜まで活動していたので、土曜日はゆっくりしようと決めていたが、昼頃になって小腹がすいたため、コンビニに行ってチョコバーでも買おうと出る支度をした。寝ぼけ眼のままパーカを羽織りドアを開けると、黒い半袖のポロシャツを着た、中東系の顔立ちの男性がノックをする姿勢で僕と目が合った。

ドアを開けて予想だにしない展開で僕は一瞬ひるむが、黒服ポロシャツと彼が手に持っていた雑巾のおかげで、彼が「掃除のおじさん」であることはすぐに認識できた。

"Hola" と言うと、
"Hola, ▽#%?〇((〇///...??"

と突如、訳の分からないスペイン語を彼は笑顔で話してきた。勿論訳がわからないわけではない、Holaと言っているのだがそれは明確にスペイン語なのだが、僕の使用言語にスペイン語は含まれていない。(大学の頃スペイン語第二言語で取っていた僕。自慢ではないが、再履の達人である)。

"Uh, what?"

英語で返すと、彼は困惑した顔になる。今度は身振り手振りを付けてスペイン語を喋る。部屋の中を指し何かを拭く動作から、彼が「部屋の中を掃除しますか?」と聞いてきていると僕は推測した。

"Um, it's okay, it's still clean and I'll just come back in ten minutes, so I don't need a clean up"

英語は全く話せなさそうだから、ジェスチャーを付け加えた。手をお腹の前でパーにして細かく振る、日本人の典型的な拒否のサインで。
だが、彼はまだ何かを喋ってきた。部屋の中を指さして、掃除のジェスチャー。迷った挙げ句、僕は彼を部屋の中に招き「ほら、綺麗でしょ?」と言った。ベッドは一応形になっていたし、散らかした痕跡もない。バスタオルもまだひとつ、使用できる状態にある。我ながら綺麗に保ったものだと、鼻を高くして彼を見た。

すると、なんということでしょう。それまで笑顔だった彼は、部屋の中を見て、笑顔でなくなっていた。真顔だった。あれほど完璧なスペイン人の真顔を、僕はその日初めて見た。あれ、何か間違っているのか?と思いながら、僕は彼におそるおそる言う。

"So, you don't have to clean up the room, okay?"

だが掃除のおじさんは、今度は懇願するような顔で僕にスペイン語を喋ってきた。最後に "five minutos, five minutos" と指を三本立ながら言ってきた。5分か3分かわからなかったが、多分絞り出した"five"という英語を間違えたのだろう。彼はこの部屋を3分でいいから片付けさせてくれと言っていた。

え、俺の部屋そこまで汚いですか?と思いながら、そのプロ根性に僕は負け、頷きながら"Okay, then please, muchas gracias" と言う。すると彼は満面の笑みで廊下にあるかごへと駆けていった。

 

スペインはアメリカなどと違い、チップの制度はない。だから彼が何故そこまで掃除をしたいのかがわからなかった。コンビニでポテトチップスを買いながら、あのおじさんの笑顔を思い出す。そして、真顔になった瞬間も思い出した。その目は、部屋の隅々までをも見ているかのような目だった。・・・おそらく彼は、掃除の神様なのだろう。掃除をすることに人生の全てを捧げ、これからも捧げるつもりでいるのだろう。掃除の代名詞として、彼の顔は僕の中で生き続けるだろう。

 

エレベーターの中で時計を見ると、ちょうど十五分外出をしていた。もう戻っても、おじさんは部屋にいないだろう。全てが綺麗になっていて、彼が存在していた痕跡すら残さないのだろう。少しだけ、不安になった。あのおじさんは、掃除をすることで、全てを綺麗にするだけでなく、自らの存在をも消してしまうのではないか。部屋に入った瞬間、僕は「この部屋は掃除された」という事実さえもなくなってしまうのではないか。掃除の神様なのだ、記憶も片付けられても、不思議ではない。

 

部屋に戻ると、ドアが開いていた。

 

おじさんはまだ掃除していた。

警官の「止まれ!」前振りが言葉としては弱すぎる件

海外の映画なんかを見ていると、よく警察官が逃げる犯人に "Freeze!" と叫んでいる。もちろん、あれで止まるはずがない、とほとんどの人が思うだろう。僕が犯人だったら絶対に止まらない。しかし、悪いことをしたと分かっている犯人以外の人間は、おそらくその言葉を聞いたら、その瞬間固まるだろう。声のする方向に顔を振り向けて、その場からは動こうとしなくなる。警察の "Freeze!" は実は、犯人のためではなく、誤射をなくすために周りの人を止めるための発言なのかもしれないな、と、今日街中を歩きながら思っていた。

さて、この "Freeze!" の真意は知る由もないし、知る必要もないと僕は思っている。そもそも逃げる犯人に「止まれ!」と叫んでも、少し言葉を強め「止まらなければ撃つぞ!」と叫んでも、それは犯人自らが逃げ、撃たれるようなことをしているということであり、本人の中では当然自覚があるはずだ。もし自覚なき犯行であれば、犯人はそもそも逃げない。


では、何を言えば犯人を止めることができるのだろうか。いろいろと考えた結果、3つくらいの候補が頭に浮かんだ。止まる犯人が想像できる。


ケースその1 芸能人

警官1「おい、あれはもしやクリスチャン・スチュアートじゃあないか!?」
警官2「しかもなんたって街中を水着姿で歩いてるんだ!?おい、こっちに来るぞ!」
警官1「本当だ!ちょ、待ってくれ、今確かに俺はクリスチャン俺と目が合ったぞ!」
警官1・2「もう犯人は諦めよう、クリスチャンー!」

逃げる犯人が振り向いた時、そこに二人の警官の姿はない。しかし犯人は、水着姿の生クリスチャン・スチュアートが見たくてたまらない。逃げた道を戻り、水スチャンを見るため路地から顔を出す。その瞬間、警官二人が彼の身柄を抑えるのだ。(※犯人が女性だったら、パンツ一枚のロバート・デ・ニーロがこちらに向かってくる、という設定にすれば問題ない)


ケースその2 アルマゲドン

警官1「おい、ありゃあ一体全体なんなんだ・・・?」
警官2「あれは・・・おい危ない、警官1、伏せるんだ!」
轟音、後に爆発音
警官2「お、おい、お前、大丈夫か・・・?」
警官1「俺はもう、駄目みたいだ・・・しかし、お前は無事なようで・・・よかった・・・」
警官2「警官いちぃぃぃぃぃ!!!!!」
そしてエンディングロールのエンダーイアー、と曲が流れ始める。

振り向くタイミングにもよるが、犯人が止まった直後、警官2は撃てば終いである。ちなみにこれは、隕石の落下を引き起こせる人間がいなければならない。警官2にその能力が備わっていれば、警官1を犠牲にすることで犯人を逮捕できる。また、エンドロールの曲はまるでそこが映画館であるかのような臨場感を出すための設定なので、大型のスピーカーであれば問題はないが、可能であれば歌っている本人をステージに立たせるのが効果的と思われる。

 

ケースその3 パンティ&ストッキング
警官1「パンティ!!!!!」
警官2「ストッキング!!!」
犯人「は?」

以上である。意味不明なことを言うことにより、犯人の注意は容易に惹き付けることができるのだ。これは何もパンティ&ストッキングにこだわる必要はなく「イカ!!!」「明太子!!!」とかでもいい。「のり!!!」「パスタ!!!」とか。なるべく語呂がよく、一緒にあって違和感のないものを叫ぶのが良い。

一回で効果がない場合は、追いかけながらこういった単語を叫ぶのが良いだろう。どこかで犯人が「俺、それ好きやわ」となって振り向く瞬間があるかもしれないからである。

唯一注意が必要なのは、これでは警察の威厳が失われてしまいかねないということにある。街中をパンティ!とか、ストッキング!とか叫びながら走っていれば、セクハラとかで訴えられかない。イカ!とか、明太子!でも、人の感じ方によってはセクハラ。むやみに叫ぶことは警察の威厳をなくし、さらには窮地に陥れてしまう危険性が孕んでいるのだ。


結果的に見ると、一番効果的だろうと思えるのは三つ目の「訳分からないことを叫び続ける」ことだと思った。今後警察は、このブログを参考に、訳のわからないことを叫ぶといいだろう。

 

ちなみに、ググってみたら、どうやら警察が叫ぶのは一般人を止めて逃げ続ける犯人を認識するためだとかー。
ニアミスで最初の予想が当たってしまっていたので、なんとも複雑な気分です・・・。

巷のフリースタイルラッパー ピースマン

フリースタイルラップというものが巷では流行っている。「巷」がいまだにどこかわからない僕だが、まぁとにかく、この言葉を最近はテレビやら若者の会話の随所で聞くようになった。

 

フリースタイルラップが何かというと「適当に韻を踏んでyeahとかyoとかで締めるラップ」である。例えばこんな風に。

 

やってきたぜ俺らの巷

人口8割苗字が柴田

残りの2割は全員蒲田

ああこのフリースタイルラップ完全にアクシデント、俺まさにやっち・ま・た  yo!!

 

こんな風である。これがフリースタイルラップである。馬鹿にしているわけではなく、これが僕の限界なだけだ。そこはご了承いただきたい。

だが、初心者でも楽しめるのがこのラップの特徴である。テーマを選ばずとも、好きなことをフィーリングでuh uh に合わせて言えばいいのだ。

みんながuh uhと言いながらラップ調で会話を繰り広げていけば、もうこの韻踏みに必死になるに違いない。つまり喧嘩どころではないのだ。

 

車の接触事故が起こった。

「あらあらごめんyo わざとじゃないのyo♬」

「奥さん慌てずとりあえず uh 茶でもずずっと飲み干しゃ安心するはずぅ♩」

「あらあら若いのに随分 自分 寸分違わぬナイスガイhuh 公平性を重んじるわねイーブン♪」

「奥さん 俺の名はピースマン 覚えとらん? したら車のことはdone!」

 

強盗と鉢合わせした。

「おいお前 俺の部屋散らかした手前 今すぐやめたまえ♬」

「すまねぇ思わず地団駄踏んだ なんせ俺は強盗なんだ お詫びにそうだ こいつでどうだ?」

「なんだねこれは …もしやお前は uh uh♪」

「そう、俺は平和ー それは電話ー 平和の象徴鳩電話ぁcmon!」

 

戦争開始の合図が鳴った。

「攻撃するぜ 総勢ー 1000の兵士で駆け込むぜhun♪」

「このピースフルワールド 攻撃するお前は悪だ 俺は悲しいぜoh エンドオブワールド…」

「すまねぇそんなつもりじゃ ここじゃ強者じゃ なきゃ生き残れねえんじゃ…」

「争いに もう遅い なんてないんだぜcmon 」

「許してくれんのか ほな 俺の兵士全員下がらんか♩」

「平和を願ってピースサイン そのマークでサインコサインーyeah together…」

タンジェント!」「タンジェント!」

「yeah!!!」「yeah!!!」

 

なるほど、ラップで世界が平和になるという意味がこれでようやくわかりました。

でも楽しいので、一度声に出して韻を踏んで誰かと会話してみてください。本当に楽しいです。

相手のドン引き具合

めっちゃやべぇ場合

そう伝えるんだお前のeyeで全身全霊の愛!

147段の中で繰り広げられた2時間サスペンス

最近、老いというものを感じるようになった。

現在、出張でスペインのホテルに泊まっていて、僕の部屋は7階にある。

今日、朝食を食べ終わってから「階段であがろう」という思いに至った。この思考の経緯には、まず「最近運動していないからたまの運動もいいかな」というきっかけがあった。

さらにここに「高校生の頃だったら階段を7階分あがるなんてウォーミングアップや」という ”俺ならできるぜ” 的判断要素と、「階段は上るよりも下るほうがきつい」という "果たして本当かどうかも怪しい" 情報源が要素として加わった。これらの理由は、階段を7階分上ることの動機付けとしては十分であった。


これほどの動機が揃っていれば、火曜日の夕方16時くらいからやっている昔の刑事ドラマでは、確実に犯人扱いされる。「俺はやってません」といくら言っても、刑事は目の前にカツ丼を差し出しながら「いい加減吐いたらどうだ、おふくろさんが悲しむぞ」なんて諭してくる。無実を訴えるたびにカツ丼をよこしてくるものだから、真犯人が捕まらなければ食事は毎日カツ丼になり、一ヶ月後には体重が5キロほど増えている。結果、連行された日よりも少し野太い声で刑事に告白をする。
「ぼぉくがぁー、やりましたぁ」
勿論、無実だ。
「やっぱり貴様だったか!」
刑事はそれまでの温厚な態度から一変、声を荒げ机を叩き、目を吊り上げ「なぜだぁ!」と言ってくる。
「か、カツ丼がぁもうぅ、食べられなくてぇー」
頬に肉が付き、痩せていた頃のようにうまく声を出せない。口が常に「う」の形にすぼめられているためだ。
「カツ丼!?それが理由で殺したのか!?貴様、信じられんデブだなぁ!」
刑事の怒声とともに唾が顔にかかる。その唾の匂いを嗅いで、あ、これはミートスパゲティを昼に食べたな、と僕は思う。頭の中で美味しそうなミートスパゲティを想像し、いかん、これはデブの発想だ、と我に返る。
「いや、そうじゃなくてぇ」
「そうじゃないならなんだ!!」
「いやぁ、そのぉ、やっぱり僕はやってないですぅ、カツ丼はもう嫌いですぅ」
「ええい黙れ、このカツ丼いくらしたと思ってるんだ!一杯650円だぞ!調書を始めて一ヶ月、一日三食、つまり合計で6万ちかくだ!」
「300円のサラダでいいのでぇ、それでお願いしますぅ」
「自分に主導権があると思っているのか?貴様はここで、何故あの男を殺したのか、まずはそれを告白することから始めるんだ!」

刑事は、いつも理不尽な条件をたたきつけてくる。カツ丼地獄から脱するために自供するか、無実を訴え続けこのまま月5キロのペースで太り続けるか。究極の選択を迫られ、僕は人生でこれ以上ない葛藤に悩まされる。
そんなとき、突然取り調べ室に白衣を着たショートカットの女性が入ってきた。
「ちょっと待って、彼は無実だわ」
「おい、科捜研がなに勝手に入ってきてるんだ。とっとと失せろ」
「ちょっと待って。確かに彼は怪しい。太っているし、精神的に強くもなさそうだわ。でも、刑事さん、あなたは本質を見失っているわ。彼を太らせたのは、あなたよ」
白衣の女性は、目をきりっと開いて刑事を見やる。それにおののく刑事。
「お、俺が?俺がこいつを太らせた?どうして俺がそんなことをしなければならない?」
「被害者は焼き鳥店の経営をしている男性よ。事件現場には食い散らかされた焼き鳥が、床に散乱していた。つまり、容疑者が太っていれば太っているほど、その人を犯人に仕立て上げることができるの」僕は彼女の発言を聞いて、驚いた。思わず、口からふしゅぅー、と、変な音が出る。
「あなた、事件があった日の夜、どこにいた?」白衣の女性は刑事に問い詰める。
「待て待て、まさかあんた、俺を疑っているのか?」
「答えて」
「それは・・・あの日は、俺は家で一人で酒を呑んでいたよ」
「あの店には行っていないということね?」
「あたり前だろ!事件があって初めて知ったぜあんな店!」
「じゃあ、事件現場に落ちていたこれはどう説明するの?」彼女はビニール袋に入った、白い何かの欠片を机の上に置いた。それを見て、刑事は、止まる。
「そ、そんなの、俺がやった証拠にはならん。パスタ麺の一部が事件現場にあったところでどうなるというのだ」
「なるほど。・・・・・・ねえ教えて、どうしてこれがパスタの欠片だとわかったの?別に、私は何も言ってはいないけれど」
「・・・・・・くっ」
「スパゲティ刑事、どうして?」
「全てあの男が悪いんだ!俺がスパゲティを愛していると知っていたのに、あいつは焼き鳥に走りやがった。知ってたか?あいつは俺の恋人だったんだぜ。俺のために店開くって言って・・・なのに、なのにやつはスパゲティじゃなくて焼き鳥の店にしやがった!だから、店にある焼き鳥を全て食い散らかしてやった。嫌いなのに!俺はスパゲティ刑事なのに!」
「スパゲティ刑事・・・あなたは間違っているわ。彼の厨房、冷蔵庫の中に入っていたものも、科捜研で全て調べたわ。奥から、ミートソースが出てきた。つくね入りの、ね」
途端、膝から崩れ落ちる刑事。両の手で顔をふさぎながら、おうおう、と嗚咽を垂れ始める。

「そんな・・・俺は、俺はなんてことをしてしまったんだ…」

 

ようやく開放された僕は、"科捜研の女" に礼をして、署をあとにした。目の前にはぎらぎらと太陽が照っていた。ダイエットでも始めるか、そう自分に言い聞かせながら、少し遠回りして帰ることにした。

 


で、階段を7階まで上ったわけだが、尋常じゃなく息が切れした。
友人にそれをメールすると「当たり前やろ、頭おかしいんちゃうかw」との返事が返ってきた。これほどまでに理論的かつ合理的な思考をする僕に対してだから、それは到底納得のできる回答ではなかった。だが、気づけば書き上がっていたこの日記を読み返すと、友人の言葉もまんざらじゃあないな、そう思って、微笑みを浮かべ、ホテルの窓からスペインの町並みを眺めることにした。

猫娘

"The Lucky Cat"というウイスキーをご存じだろうか。

本社は鹿児島にある本坊酒造ウイスキーの製造は信州のマルス蒸留所という場所である。ウイスキーの市場やら事情はよく知らないが、とにかく僕はこの本坊酒造、とりわけラッキーキャットが大好きなのである。何故好きか、理由は単純で、それは猫の存在を色濃く味わえるウイスキーだからだ(猫の毛が入っているわけではない)。これまで出ていた「サン」をモチーフとしたラッキーキャットは既に販売が終了してしまっているが、このたび、新たに「アッシュ」という猫をモチーフにしたAsh 99'がシリーズ第二弾が発売された。

これを知ったのは先日、近所のバーにふらりと入った時である。以前のサンエディションがなくなっていて絶望していたのだが、代わりにアッシュが出てきた。アッシュは黒猫で、どうやら鹿児島の本社前に捨て猫としていたらしい。本坊酒造の社長はアッシュを飼うことにして(なんといい社長だろうか)、今は亡くなってしまったものの、ラベルの絵には、当時アッシュが社長を見上げる様子が描かれていた。それを思い出して、アッシュのためにこのウイスキーがあると思うと、僕はなんだか泣きそうになった。普段、感動系映画で泣いた試しのない僕が涙を流すのは、逆立ちしたまま眠れないはずの人間が寝ているのと同じくらい奇跡である。とにかく、それくらい僕は猫が好きなのだ。そして、酒に弱い(泣き上戸)。

 

ということで「野狐は猫が好きだ」というお題である。
「この世で一番好きなものは?」と聞かれれば、僕はいろいろ悩んだ挙げ句、猫と言うかもしれない。・・・弱い。
「この世で一番好きな動物は?」これだと猫、犬の二択になってしまう。余計に弱い。
だが「この世で結婚してもいいと思う人間以外の動物は?」これは猫である。要はあれだ、猫っぽい人が好きで、それに追随して猫が好きという感じか。いや、しかし、猫となら結婚できる気がする。例えば家に帰ってご飯とか作って貰ってなくてもいいし、風呂も沸かしてもらってなくていい、「私にする?」とかいう選択肢も必要ない。ツナ缶をやり、頭をしばらく撫で、あとはもうたまに横で添い寝してくれるだけでいい。それで十分に幸せだ。たとえ夜の営みがなくても、一緒にいてくれるだけで・・・夜の営みを猫とするとか一体どういう状況になるのだろうか・・・深夜によくわからない妄想をし始める26歳男がここにいる。

 

振り返れば、僕の猫好きは昔から徹底していた。昔、まだアメリカに住んでいた頃、たまに日本のアニメなんかも見る機会があったのだが、その中でも一番楽しみにしていたのが「ゲゲゲの鬼太郎」である。猫娘が登場し、怒りで顔が豹変する姿に、僕は淡い恋心を抱いていた。彼女が目をつり上げ、牙を剝きだし、爪を立てるあのシーンが見たくて、僕はテレビを凝視していた。

ポケモンが出始めた頃、ゲームボーイで友人がみなピカチュウを求める中、僕はニャースを狙いにいった。アニメ版のニャースを見て「こいつは雄なのか、雌なのか」を真剣に考えていた。イーブイの進化形でエーフィ(エスパー、紫色の猫)が出たときなど、あの身体の曲線が美しすぎていてずっと描いていた。それらは、自分は猫が好きである、という自覚が生まれる前に行っていた行動であり、抱いていた感情である。さながら幼稚園児が保育士さんに何故かどきっとする、そんな感じである。

大学の頃、猫になりたいと思い、一ヶ月「水と牛乳と魚」だけの生活をしたことがあった。大学の講義でも、内容はあまり聞かずにひたすら教授の喋る「口」を見ていた。教授が動けばその様子をじぃーっと観察した。瞬きを我慢して飲料は全て舌でぺろぺろと舐めるようにした。だが尻尾も生えず、猫に近くなることもなく、落ち込んだ。ひと月後に友人に言われたのは「なんか顔色悪いけど大丈夫?」と「馬鹿じゃないの?」だけだった。

家ではずっと犬を飼っていて、猫は飼ったことがない。父が猫アレルギーだからで、僕も猫アレルギーだからだろう。猫が好きなのに猫アレルギーとか本当にやめてほしい。神様頼む、ひとつだけ願いが叶うとしたら猫アレルギーを・・・いや、ひとつだけだとしたらもう少し考えさせてほしい。

そういえば昔付き合っていた女の子で、キスをすると無性に唇のあたりがかゆくなるという現象が起こった。何故だろう、とキスするたびに思っていたのだが、もしかして彼女は猫だったのではないか。猫っぽい要素はあった。性格と言い、見た目と言い、行動もなんだか猫っぽい子だった。最後のフラれ方も、猫のように彼女は自由気ままだったし。そうか、彼女は猫だったのか。

 

僕は猫娘と付き合っていたのだった!

 

そんなわけないと、理解はしつつ、どこかそんな非現実が本当だったらいいなと思った。